月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「憤懣をカッコよく晴らすには」

去る八月九日に、ひろのぶと株式会社の田中泰延さんとアートディレクターの上田豪さんと、ワタクシ前田将多と、今回で第10回を迎えるトーク配信を行ないました。

『僕たちは明日以降で本気出す』

youtu.be

この番組はみなさんからご質問やご相談を募りまして、それらにお答えしていく形式で進みます。今回はホスト席が豪さんだったので、いただいたご質問リストの中から、彼が選んだものを取り上げていきました。
しかし、毎度のことながら、たくさん頂戴したご質問の中からほんのいくつかしかお答えできません。

配信の中では取り上げることができなかったけど、僕ならこんなふうに答えるかな、と思っていたご質問をここで紹介させてもらいます。

Yさんより

心無い言葉や返信に、いつも見事な返しや対応をされている御三方、感心と尊敬の念が絶えません。
そんな御三方でも、どうにもやるせなかったり、我慢できないときがおありなのではと思います。
そんな時、どう発散されてますでしょうか?
私は、ご褒美と称しておやつや美味しいものを自分に与えるようにしています。
どんなことをされているのかお聞きしてみたいです。よろしくお願い致します!

Kさんより

「嫌なこと言われたとき、その場で直ぐに反応できず後でモヤモヤしてしまう」ので、どうしたら直ぐに反応できるようになるでしょうか。もしくはどう反応したらよいでしょうか。

共通点があるご質問だったので二つまとめて挙げさせてもらいました。

私からまず言えることは、「あるよね~」なのですが、そりゃあそうです。

まず、Kさんのほうですが、なにか「ん?」と引っかかることを言われて、その場はスルーしちゃったんだけど、帰りの電車の中で気になってきて、「あれ、失礼じゃねえか?」なんて疑念が確信になってきて、ベッドに入ってから、怒りが湧いてきて眠れなくなる。
はい、たまにあります。

ハードボイルド小説の主人公みたいに、その場で瞬時に適切に反応できて、相手の過誤を的確に指摘できる、などということは、なかなかありえませんわな。

仕事上のメールやツイッターなどSNS上では、「なんだてめえ?」と思ってから、考える時間がありますから、それなりに上手に返せるチャンスはあります。

かく言う私にも、腹が立って眠れないこともありますし、ネコにいらん時刻に起こされて腹立つこともしょっちゅうあります。つまり、寝ても覚めても腹を立てています。

何年も昔の会社員時代に仕事で遭遇したムカつく人間を思い出して、寝返りを繰り返すこともありますし、何度思い返しても私が受けたあの扱いは不当ではないかという経験に、気づけば歯を食いしばってしまっていることもあります。

それに対して、いまの私ができることはありません。ないのです。

ただ、心の片隅で持っておかなくてはならないのは、「もしかしたら、自分も誰かに対してそういうことを言っているのではないか。いや、おそらくやらかしている」という認識です。
イヤなことを言われてあとになって腹立つことは、私に起こるんだから、私にかかわる相手にも起こっています。実際、心当たりがいくつもあります。いろんな人たちを怒らせてきました……。

だから、あとになってその人が、「マエダくん、昨日のアレはないと思うぞ」とか「アレは酷いぞ」なんて言ってくるかもしれません。
そういうときは、たいていこちらにすこしは非があるものですから、「そうでしたか。それはすみませんでした」と言えるかどうか。そこがあなたの人間の器を映してしまうのではないかと思います。

完全な冤罪なら抗うべきですが、大概の場合、相手の立場になってみれば「そっか。そう受け取られたか。それは失礼しました」という気持ちになるものです。

でも、多くの場合、ひとは面と向かって対峙してはきません。陰口を叩かれるだけです。
ですので、直接伝えてきた人にはまずその勇気に免じて花を持たせるくらいでちょうどいいです。

それによって、あなたがあなた自身を、「あー、素直に謝ったワタシ、カッコよかった」と思えればいいのではないかと。
そうやって、誰かの「クソ」を成仏させてあげれば、自分の中に埋葬されたクソも一個帳消しになるくらいの、勝手なケリのつけかたでいいのではないでしょうか。

これにて、Yさんのほうにもお答えしたつもりです。
「どうにもやるせなかったり、我慢できないときにどう発散するか」は、「あんなクソなことをグジグジ考えずに寛恕しちゃうワタシ、カッコいいなぁ~」です。
これしかありません。いまも、寛恕だなんてむつかしい言葉をさらっと書いちゃうオレ、実にカッコよかったです。
そのあとに、ご褒美におやつ食べちゃうのもまぁいいでしょう。
いつも自分を褒め、しょっちゅう自分を労い、たまに自分を慰めるw

女性の人生はわかりませんが、男性の生なんて、「オレ、カッコいい」を追求するしかありません。スターでもない限り、ふつうはおかんくらいしか言ってくれませんから、自分で自分を「カッコいい」と思える言動を実践していくほかありません。それこそが自尊心と呼べる、健全なナルシシズムなのでしょう。

本当の犯罪は告発していいですけど、忘れてやれるものなら、神様から自分の度量を試されていると思って、放念です。

自分がじいさんばあさんになったときに、たのしかった思い出ばかり語りたいじゃないですか。
そして、そんな人がごくたまに、本気で腹立ったとか、心底ツラかった話をユーモア交えて話せれば、まわりの人たちも耳を傾けてくれると思います。

最後に、寅ちゃんからの言葉をどうぞ。

 

(了)

 

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