もうすぐ母の日である。
私自身は(主人まかせで)母の日になにか特別なことはしてこなかったので、えらそーになにかを説ける立場にはないのだが、カントリーミュージックには母親を歌ったすてきな歌がいくつもある。
新旧のその中から3曲ご紹介したい。

①”Mama Don’t Forget to Pray for Me” by Diamond Rio (1991)
Well hello, It's good to hear your voice
I hate to call so late but I didn't have a choice
I'm calling you from Dallas headed for L.A.
I wish I had more time to talk, there's so much to say
もしもし 声が聞けてよかったよ
遅くにかけてすまない でもどうしても話したかった
ダラスからかけてる これからLAへ
もっと時間があればよかったんだけど 話したいことはたくさんあるから
No I ain't forgot how I was raised
But I'm livin' way too fast
It's a roller coaster ride, up and down
いえ、あなたにどう育てられたかは忘れてないよ
だけど人生は激しすぎて
浮かんだり沈んだり ジェットコースターのようだよ
My new job is going great
I'm headed for the top
I should be happy but somehow I'm not
Sometimes I think the devil has got me by the sleeve
Oh Mama
Don't forget to pray for me
新しい仕事は順調だよ トップを狙えるかも
幸せであるはずなのに どうしてかそうじゃないんだ
ときどき悪魔の誘惑に負けそうになる
ママ 僕のために祈るのを忘れないで
一番だけ訳しましたので、興味がある方はYouTubeでどうぞ。
ダイヤモンドリオの”Mama Don’t Forget…”は、私が高校生のころに発表された曲で、当時私はカントリーの好きな曲を集めて、CDからテープに録音していた。
CDは、私にカントリーを教えてくれた父親がいくらでも買ったりもらったりしてきたから、家にたくさんあった。
母親はさしてカントリーに興味があるわけでもなかったが、父がずっとそれを聴いてきたから自然と慣れ親しんでいたと思う。
私が高校を卒業して、アメリカの大学へ旅立つときには、母親のために一本のカセットテープを家に残した。そこには「ママ、僕のために祈ることを忘れないで」というこの歌が含まれていた。
はじめて母親からアメリカの大学に届いたエアメイルの手紙には、”Sure(もちろん)”と返事があった。
つぎの歌は物語になっているので歌詞の全文を訳す。
②”She Was” by Mark Chestnutt (2002)
She started her new life ten dollars in debt
That's all it took to get started back then
A trip to the courthouse across the state line
No one could stop her, she'd made up her mind
He was eighteen, she wasn't
彼女は10ドル借金して新しいくらしをはじめた
当時はそんなものだった
州境の向こうの裁判所へ出かけた
誰も彼女を止められなかった 彼女は心を決めていた
彼は18だった 彼女はちがった
But she said she was and never thought twice
Came back home as my daddy's wife
She just shook her head when her momma said "Are you sure he's the one?"
She was
でも彼女は「そうです」と言った 考え直すなんてありえない
私の父の妻として 家に帰った
彼女のママが「ほんとうに彼でいいの?」ときいても 彼女はとりあわなかった
彼女は確信していた
He took a job and farmed on the side
He made the ends meet, but she kept 'em tied
Changes were coming to their little world
She said "What would you like, a boy or a girl?"
He said "Are you?"
彼は職を得て 副業に農家をやった
彼はなんとかやりくりし 彼女はそれを支えた
彼らのちいさな世界に変化が起きた
彼女は言った「男の子と女の子 どっちがいい?」
彼は言った「もしかして…」
She said she was and never thought twice
'Bout takin the next step in building their lives
Soon there were three and she tried to be everything to us
And she was
彼女は「そうよ」と言った 考え直すなんてありえない
ふたりの生活のつぎのステップにすすむことを
やがて三人ふえた
彼女は僕たちのすべてになろうとした
そして 彼女はそうだった
Those precious moments turned into years
In what seemed like the blink of an eye
I held her hand as I leaned down to ask her "Momma, Are you ready to say goodbye?"
そんな大切な日々は またたく間に年月となり
僕は彼女の前にかがんで その手を取った
「ママ さよならの準備はいいかい?」
She said she was but she thought twice
Holdin' my hand as she let go of life
Daddy always said a woman like her would be hard to give up
And she was
She was
If there ever was a picture of love
She was
彼女は「そうね」と言った
でも考え直して 僕の手を握りながら 命を手放した
父はいつも言っていた「彼女のような女はあきらめきれないよ」
そうだね
彼女はそうだったね
もし愛情にかたちがあるのなら
彼女がそれだった
"She Was"というシンプルな言葉が、
She said she was(18歳ではなかったけど、そうだと言った)
She said she was(妊娠したの? と訊かれ、そうだと言った)
She said she was(逝く準備はできたと言った)
She was(彼女こそ愛情のかたまりだった)
とさまざまな意味において常に通用するところが、この歌の高い芸術性と、英語のおもしろさを示していると思う。
母親の来し方からいまわの際までを描く歌は、Blake Sheltonの”The Baby”にも通じるところがある。
こちらは10年前にコラムに書いているので、あとでどうぞ。
つぎは、今やカントリー界のスーパースターであり、危険行為(BARの屋上から椅子を投げて落下させた)で捕まったり泥酔して暴言吐いたりといった悪童でもあり、稀代のストーリーテラーでもある、Morgan Wallenからの一曲。
③”Thought You Should Know” by Morgan Walen (2022)
What’s goin’ on, mama?
Something just dawned on me
I ain’t been home in some months
Been chasin’ songs and women
Makin’ some bad decisions
God knows I’m drinkin’ too much
Yeah, I know you’ve been worrying ’bout me
You’ve been losin’ sleep since ’93
元気にしてる? ママ
急に思いついて電話してみた
何ヶ月も帰ってないよね
新曲とおねえちゃんたちに忙しくてさ
失敗ばかりだし 飲みすぎかもね
ああ 心配かけてることはわかってる
93年に俺を産んで以来 寝不足なんでしょ
I thought you should know
That all those prayers you thought you wasted on me
Must’ve finally made their way on through
I thought you should know
I got me a new girl down in Jefferson City, and
She lets me fish whenever I want to
Yeah, I’m still proud of where I came from
Still your only damn son
Can you believe I’m on the radio?
Just thought you should know, thought you should know, thought you should know
知っておいてほしいんだ
あなたがムダだったと思った俺へのすべての祈りが
とうとう通じたようなんだよ
知っておいてほしいんだ
ジェファソンシティに彼女ができてさ
いつでも好きなときに釣りに行かせてくれる
ああ 俺は今でも故郷に誇りを持ってるし
あなたのドラ息子だし
俺の歌がラジオで流れてるって信じられるかい?
知っておいてほしいんだ 知っておいてほしいんだ ただ知っておいてほしいんだ
Oh, by the way, mama, didn’t mean to ramble on ya
How’s everything back at home?
Yeah, how’s that garden comin’?
Is dad still doing dumb s—?
And how’d he keep you this long?
Yeah, I’m sorry that I called you so late
I just miss you but anyways
ところでママ だらだら話すつもりはなかったんだ
家ではどうだい 庭ではきれいに咲いた?
おやじはまたバカなことやってんだろ?
よくまだいっしょにいるよね
ああ こんなに遅くにかけてごめん
ただ会いたいなと思ってさ
とにかく 知っておいてほしいんだ
(中略)
That I really like this girl down in Jefferson City, and
Turns out she’s a lot like you
Yeah, I’m still proud of where I came from
Still your only damn son
The bus is leavin’ so I gotta roll
Just thought you should know, thought you should know, thought you should know
I thought you should know, thought you should know
I thought you should know, thought you should know, thought you should know
ジェファソンシティのあのコのことが ほんとうに好きでさ
なんだか母さんによく似てるって気づいたんだ
ああ 俺は今でも故郷に誇りを持ってるし
あなたのドラ息子だし
バスが出るから もう行かなくちゃ
ただ 知っておいてほしいんだ 知っておいてほしいんだ 知っておいてほしいんだ
知っておいてほしかったんだ
私はモーガン・ウォレンが好きすぎて、過去にも二度、曲を紹介している。
③の”Thought You Should Know”は、①”Mama Don’t Forget…”と共通して、遠く離れた母親に電話するシチュエーションである。アメリカでも日本でも典型となる母と息子の関係性なのだろう。
興味深いのは21世紀も4分の1が過ぎたってのに、(スマホでの)テキストメッセージではなく「電話」だし、SpotifyやYouTubeでもなく、テレビですらなく「ラジオ」が登場することだ。
旧くなったテクノロジーはなぜか自然の一部ということにされる。電話は温かい声で心を伝える道具であり、扇風機は優しいそよ風を吹かせる装置であり、JRの在来線は車窓からゆったりと旅情を楽しむ乗り物と言われるが、みんな発明されたときは先端テクノロジーだったし、いまでも電気バリバリ使とるわ
— 田中泰延 (@hironobutnk) 2012年6月4日
現代をもってしても、電話は歌になるが、フェイスブックメッセンジャーやLINEやZOOMではまだうまくいかないのだ。コクが出ないのだろう。
今朝ちょうど、「コクってなんやねん。テキトーなことぬかしやがって」とググったら、「複雑さ(味の深み)」「(口の中での)広がり」「持続性(後味の余韻)」の3つの要素で構成される、とジェミニくんが教えてくれた。
紹介した3曲に、コクは感じていただけただろうか。
私の母親は数年前から施設にいるので、電話で直接話すことはもうない。電話をするのは面会の予約をするためだけである。
私は関西、母は東京にいるため、それも年に数回できればいいほうだ。
母が元気で実家にいたころ(いや、いまも元気にボケてるだけなんだけど)にだって、電話をすることはほとんどなかった。
たいした用事もなく電話したところで、
「ちょっといま台所で煮物してるから!」とか、
「いまから出かけるところなの!」とかで早々に切られて、
「なんだよせっかくかけたのに」と気分が悪くなることばかりだったと思う。
だいたい母親に相談することなどなにもない。
母親に望むことは「オレより長生きしないでおくれやw」くらいかな。
だって親より先に死なないことがそもそもの親孝行だろう?
昨年の秋だったか、施設に母親を訪ねた際、私は自社で販売するボクモフーディ―を着ていた。

「かわいいわね、それ」と母が興味を示した。
「ええやろ、うちのやねん」
「えー、あたしもほしい」
「いらんやろ、施設にいるだけなのに。フリースも持ってるし」
「あたしもちょうだい。お金なら払うから!」
「財布も持ってないのに、どうやって払うんやw」
押し問答の末、私は12月が母親の誕生日でもあったので、後日プレゼントすることにした。
年が明け、2月ごろ、私は東京にいる兄に会った。
「おかんは、オレがあげたフーディー、気に入ってるみたい?」
「ああ、この前面会に行ったとき着てたよ。『なんかわからないけどショータがくれた』って」
なんかわからないけど!w
そんな調子なので、話すことはもうあんまりないんだけど、いま私がしているように、遠くから母親を想うことが、電話をかけることとほぼ等価なのではないかとすら思える。
すべてのお母さんたちに、愛を。
それが花であれ、電話であれ、手紙であれ、祈りであれ、なんであれ。愛を。
了
(対訳はすべて前田将多)

さて、本題である。























