月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「メディア関係者に”書く力”を」

はじめまして。前田将多と申します。

最近はなぜかまとまった文章を書くことができなくて、書いては消して、書いては没にしての繰り返しなのだが、ここへきてまた困った本を読んでしまった。

直塚大成・田中泰延共著『「書く力」の教室』(SBクリエイティブ)という。

なお、タイトルの前には「1冊でゼロから達人になる」という、出版社らしいインチキくさい惹句がくっつけてあるが、ひとまずそれは措いて「書く力」とはなんぞやということを、私も改めて考えようと思った。

田中泰延さんとしては大ベストセラーとなった『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)につづく、「書く」ことに関する本の第2弾ということになる。

そもそも、私はこの『読みたいことを……』を読んだあとに自分のブログすら書けなくなって苦しんだ。
「だれかがもう書いていないか」、「自分の内面を語っていないか」、「一次資料に当たったか」、「巨人の肩に乗れているか」、「感動が中心にあるか」などなど、この本に書いてある問いを自分に投げかけだすと、「こんなもんオレが書いても仕方ない」という気持ちになってしまうのだ。
それでもやっぱり自分のために「自分が読みたいことを書く」ことが、書くという行為が畢竟辿り着くところなのだけど、さて、新作『「書く力」の教室』は、私にも書く力を与えてはくれないだろうか。それとも、また苦しむのだろうか……。

結論から言うと、たくさんのページを折りながら読んだ。

390ページの厚みがあるが、短い時間でスッと読め、スッキリ理解できる本であった。

この本は、田中泰延さんを先生として、生徒となるライターもしくはライター志望者を選抜するプロジェクトからはじまった。

北条政子について書きなさい」というお題に対して、67名からの応募があり、選ばれたのが大学院生の直塚大成さんだったのである。

いまは私自身も直塚さんと知り合い、その人物像も把握しているから、ここでは言いにくいが、彼が選考を勝ち抜いて選ばれたこの北条政子コラムを読んだときは、なにがおもしろいのかイマイチわからなかった。ごめんね、直塚さん。
きっと直塚さん自身も、いまこれをこんなふうに紹介されるのは、とても恥ずかしいとは思うんだけど、載せざるを得ないから載せますね。

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私も大学院に行っていた(中退)し、通ってきた道だから、と上から目線みたいに感じられたら申し訳ないのだけど、いかにも小賢しい大学院生がチョケて書いた感じが見えたのである。
でも、だいたいちょっと筆に自信のある若者って、こういう感じなんですよ。

斜に構えがちだし、独りよがりだし、つまらないことをおもしろがって延々書くし、結論に困ったら、はじめに言ったギャグに立ち返るんですよ。オレがそうだもん。愚かな若者から成長できないまま50手前になったオレが。

だけど、きっと田中泰延さんおよび編集チームの方々は、彼の書いたものに「調べる力はある」し、「強引だけどひとまとまりの文章を書き切ることはできる」と踏んで、評価したのだと推察する。

これから生徒になるのだから、いきなり完璧なものを書かれても「お前に教えることはなにもない」で本にならないからね……。

まだ『「書く力」の教室』をお読みになっていない方に向けて言うと、第一章「なにを書くか」は、前述の『読みたいことを、書けばいい。』と併せて読むといいと思う。「感動のへそ」「一次資料に当たる」など重複する部分はあるが、そこはひろのぶさんが繰り返し述べたい点でもあるのだろう。

「静かな文章を心がける」というのは、私も文章術の本はたくさん読んできたはずだが、はじめて触れた警句で、そうか、そうしようと素直に思えた。

そして、第二章以降の「準備する」「調べる」「依頼する・会って話を聞く」は、「書く」だけでなく、書いて仕事をする上で大切なことを示唆してくれる。

それはなにもいわゆるライターのみでなく、テレビや新聞、ウェブメディアの記者、制作スタッフ、コピーライター、広報マンなども知っておくべき作法や心得がたくさん出てくる。

「書く力」というのは必ずしもライターの専売特許ではなく、コミュニケーションの基本であり極意であり、仕事をする上で必ずあなた自身を助ける能力なのだ。

よくSNSで「XXテレビの取材がきて、こんなに酷かった!」とか「XXの記者がこんなに失礼だった!」などと炎上しているが、この本をちゃんと読んで実践していれば起こるはずのない事例だ。

〈まだ実際に話も聞いていないうちから、「こんな風にまとめよう」という考えで臨んではいけません〉
〈相手を決めつけるような聞き方はNG〉
〈質問のフリをした「自己アピール」は禁物〉
〈「〇〇さんにとって、××とは何ですか?」は失礼〉

いくつか例を挙げただけで、新聞社やテレビの記者、インタビュアーのみなさん、メディア関係者全員! 思い当たるフシがあるはずである。
ぜひ、この本を読んでください。

本書の中で「素直に書くこと」が強調してある。

一年にわたり田中さんの教えを素直に聞いて、懸命に調べて、素直に書いた直塚さんの「納豆と豆腐」についての終盤のコラムは、拍手モノである。

ひとがなにかを学んで成長する過程がまざまざと記してあり、これは『ベスト・キッド』を観るようであった。
もともと力のある直塚さんが、よい師に出会って、はっきりと実力を伸ばす姿は、ただの読者である私の目にも爽快である。

それが一番カンタンなようであり、実はかなりむつかしい、「静かな文章を」「素直に書く」こと。私も大変勉強になった……。

文章については毒を好んで、「コブラ会」みたいな私であっても、ここは素直に敬服した次第である。

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