ダイバーシティだとかサステナビリティ―だとかSDGsだとかポリティカリーコレクトネスだとか、ホント―にうるさい世の中になったものだが、いつの世も敬意を払われモテるのは、男らしい人、女らしい人であるというのは強烈な皮肉である。
……てなことを、アメリカの刑事ドラマや日本の探偵小説を通じて思った。
寅ちゃんもこう言っていたし。
「寅ちゃんはなに考えてるの?」
— 前田将多 (@monthly_shota) 2021年8月2日
「いいか、映画でもドラマでも、主人公が誰であろうと、そいつはちょっと古い人間なんだよ」
「…たしかに。なんで?」
「そのときどきの潮流にたやすく乗るような人間は、やがて流れて消えてしまうからだ。人間の美徳はほとんど変わらないものだ」 pic.twitter.com/geJUkobEj1
「古い男」と聞いて、二階さんみたいなのを想像されると困っちゃうのだが、カッコいい男はたいていちょっと古いのである。
僕がここ何年も観ているのは『シカゴPD』で、これはシカゴ51分署の消防士たちを描いた『シカゴファイア』のスピンオフとして製作され、現在シーズン7まで続いている。
シカゴ警察署に設置された特別捜査班のハンク・ボイト捜査官は正義の悪徳刑事で、ギャングから押収したカネを自分の金庫に隠し持っていて、仲間が人質になるなどイザというときには、そこから札束を出してきて使うし、事件解決のためなら暴力、拷問、なんなら殺人まで厭わない冷血漢だ。
反面、特捜班の部下たちには強い連帯感を持っていて、よい父親のように頼りになる男でもある。
最近見たのは『BOSCH』というアマゾン製作の刑事ドラマ。シーズン7で完結したが、これはアマゾン史上最長で、彼がLA警察を辞めて私立探偵になってからのスピンオフ作品が今後発表されるという。
主人公のハリー・ボッシュは典型的な一匹狼タイプで、上層部に媚びないので出世はしないが、直属の上司(女性)の顔は立て、捜査資料をしつこくしつこく読み込んで事件解決に執着する。
5作の長編を今年読み終えてしまって、出るのか出ないのかわからない次作が待ち遠しいのは原尞さんの『探偵沢崎シリーズ』。
1988年に『そして夜は甦る』でデビューしてから約30年の間に長編は5つしか書いておらず、2作目と3作目の間が5年とすこし、3作目と4作目が9年、4作目から最新作にいたっては13年以上もかかっているという、生ける伝説の探偵小説作家である。
沢崎は西新宿にあるワタナベ探偵事務所の探偵だったが、雇用主が疾走したため、ひとりで事務所を経営している。ボロい車に乗り、警察にもヤクザにもクールな減らず口をやめず、硬骨漢そのものなのである。
いずれも「古い男」たちばかりで、軽やかに生きているようには思えない。
対義語となる「新しい男」というのは、まぁ「いまどきの男」ということだから、流行に敏感で、いまならスニーカーとかプレミア価格でも集めちゃって、なんなら転売しちゃって、テクノロジーに対してはアーリーアダプターで、スマホに心拍数とか燃焼カロリーとか記録させちゃって、米津さんのような本当の天才にしか許されないマッシュルームカットしちゃって、ミニマリストでビーガンでノンバイナリーで……。
世界は広いからどんな人がいてもいいんだけど、急に言い出すのやめてよね。
おじさんたちおばさんたちは、なにがなんだか飲み込むのにひと苦労なんだよ。
ところで僕の3冊目の本は翻訳書になった。
『寅ちゃんはなに考えてるの?』というタイトルで、夜な夜な僕が寅ちゃんになにを想うのか問いかけた彼の返答の言葉が「200寅ちゃん」収蔵されます。
ネコの寅ちゃんが言うことは、僕の意見ではありません。僕はあくまでも翻訳しただけなので、著者は寅次郎名義です。
でも、内容は知っているので、200寅ちゃん読むとなんだか心動かされることは約束できます。
特装版はレザー張りの表紙で、9月20日までの予約数に応じて製作する予定。ですので、予約しないとほぼ手に入らないとお考えください。
レザーは黒、焦げ茶、茶色、グレーなどで、牛革もあれば山羊革もあるので、基本的にはどんなレザーがお手元に届くかはそのときまでのおたのしみ(11月発送予定)。
通常版は紙の表紙で、撮影したレザーを印刷したデザインになります。
ランダムにいくつかご紹介:
「寅ちゃんはなに考えてるの?」
— 前田将多 (@monthly_shota) 2020年7月1日
「勝者と敗者の間の、何者でもない誰かでありたいということだ」 pic.twitter.com/vlIUi4pK0E
「寅ちゃんはなに考えてるの?」
— 前田将多 (@monthly_shota) 2020年5月22日
「『人生最良の日』って、あったか? 数々の日々がめまぐるしく思い浮かぶだろう。
『人生最悪の日』はどうだ? ひとつかふたつだろう。そんなもんなんだ、ということだ」 pic.twitter.com/zPJr5sRpJy
「寅ちゃんはなに考えてるの?」
— 前田将多 (@monthly_shota) 2019年11月5日
「"正しさ"ほど人を誤らせるものはないということだ。"正義"のためにどれほどの人が殺され、どれほどの…ちょっといましゃべってる途中だから…」 pic.twitter.com/tnaO6SJ3cP
あー、うっとうしいw
飼い主から見た寅次郎は、ボイトのように暴力的で、ボッシュのようにしつこくて、沢崎のように腹立つネコなのですが、たまに古くさくてもよいことを言いますので、ぜひ購入をご検討いただきたいです。
いまどき革張りの書籍なんて作らないし作れないんですよ。しかもただの写真集ではなくて、1ページ1ページ、デザインがちがう…。
これは、ただの本を超えたなにかになるはずです。
Thanks.
タイトル:『寅ちゃんはなに考えてるの?』
著者:寅次郎
版元:ネコノス
デザイン:上田豪
撮影:田中泰延(特装版)
レザー協力:内山高之
印刷ディレクター:ムラ係長
訳者:前田将多