月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「酔っ払いが大嫌い、だった」

僕が酒を飲みはじめたのは遅くて、二十代も後半になってからだ。
両親と男ばかり三兄弟の家族なのに、冷蔵庫にヨーグルトやプリンはあってもビールはないような家庭だった。
若いうちに何度か飲酒を試してみたけど、おいしいとも思えないし、心臓バクバクするし、自分には合わないと思い込んでいたのだ。

そして、それ以上に、酔っ払いが嫌いだった。大嫌いだったのである。

「飲まないと言えないことがある」→ふだんウソばっかついて生きやがって。
「酔うとエッチになっちゃう♡」→飲まないでもなれ。オレはなる。
「俺の酒が飲めないのか」→お前が作ったんか。

と、このように思っていたのである。

こちとら酔っぱらうという感覚がわからないので、酔っ払いの挙動はすべて、「志村けんが、ああいうふうに酔っ払いの演技をするから、みんなそれをマネしているのだ」と考えていた。

僕はケンタッキー州の大学を出ている。
ケンタッキー州はウィスキーの名産地で、1920年代の禁酒法の時代に、それまでは東海岸で蒸留されていた酒を密造するために、業者らがアパラチアン山脈を越えて内陸部に逃げ、水のよい土地としてケンタッキーを選んだ。

元々はケンタッキー州バーボン郡でつくられた、原料の51%以上がトウモロコシであるコーンウィスキーをバーボンと呼んだそうだ。いまではバーボンはケンタッキーのあちこちで製造されている。

挙げればキリがないが、代表的なところでいうと、メイカーズ・マーク、ジム・ビーム、オールド・クロウ、ワイルド・ターキー、アーリー・タイムズなどなどがある。

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2015年にMaker's Markの蒸留所も訪ねた

学生の僕は、当時ケンタッキーバーボンの一滴も飲まなかった。いまから思うと、なんてもったいないと思うが、そのころは授業のあと学内のジムで鍛えてからプロテインを飲むようなマジメな学生だったし、ルームメイトは酒もタバコもやらず、日曜日には教会に通うような男だったし、カネもないしで酒は飲まなくてよかったかもしれない。

その後、酒の飲み方に関しては悪名高かった電通に入社すると、僕は身構えた。
「ムリヤリ飲まされたらどう対処しよう……」

そういう席では「僕は、酒は飲みませんので」とまっさきに宣言していた。

そうすると必ず「飲まないのか、飲めないのか?」と訊かれる。

「飲めないし、飲みません」と決然と述べると、なんだかダブルで意志が固いような印象を与えられて、それ以上勧められることはなかった。よい先輩や上司に恵まれたのだ。

 

ところが、である。現在、四十四才。オレはどうしちまったんだ。
酒を飲まない日はない。

ウィスキーをおいしいと思うし、二日酔いしないし、体に合うのだろう。なんてこった。

 

 

 

依存しているかどうかで言うと、依存しているはずだ。

日常生活に支障はないし、いわゆる「アル中」という言葉で連想されるような、手が震えるとか、肝臓の数値がぁーとか、時と場合をわきまえず昼間から飲むとかいうことはない(こともない)が、「今日はやめておこう」と思っていても、夜になるとビールの一本はプシュッといってしまう。

 酒を飲むようになってよかったと思えることは多々ある。

得がたい友人たちも得たし、酩酊により冷たく厳しい現実からちょっと遊離するような心地よい感覚も知った。
会社を辞めてから酒量は増えたが、牧場でカウボーイたちと働きながら飲んだビールや、働いたあとのウィスキーは忘れがたい。

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カントリーには、酒に関する歌は多い。

僕の好きなやつを一曲紹介したい。

Midlandという3ピースバンドの”Drinkin’ Problem”という歌である。

 

“Drinkin’ Problem” by Midland

One more night, one more down
One more, one more round
First one in, last one out
Giving this town lots to talk about
But they don't know, what they don't know

もう一夜 もう一口
もう一度 もう一杯
最初に来て 最後に帰るやつ
この町で噂になっている
でも連中はわからないことはわからない

People say I've got a drinkin' problem
That ain't no reason to stop
People sayin' that I've hit rock bottom
Just 'cause I'm living on the rocks

ひとは俺が飲酒問題を抱えているという
それはやめる理由にはならないね
ひとは俺がどん底にいるという
なぜなら俺がオンザロック座礁とのダブルミーニング)で生きているから

It's a broken hearted thinkin' problem
So pull another bottle off the wall
People say I got a drinkin' problem
But I got no problem drinkin' at all

これは失恋による難儀な問題だ
棚からもう一本もらおう
ひとは俺が飲酒問題を抱えているという
だけど俺には飲むことになにも問題はないね

They keep on talkin'
Drawing conclusions
They call it a problem, I call it a solution

彼らはくっちゃべっては
勝手な結論を導く
彼らはこれを問題と呼ぶけど
俺にとってこれは解決法なんだ

Last call gets later and later
I come in here, so I don't have to hate her
Same old folks, same old songs
The same old, same old blue neon
The same old buzz, just because

ラストオーダーは深く また深くなる
俺はここに来ると 彼女を恨まないで済む
おんなじ連中 おんなじ歌
おんなじ酒

People say I've got a drinkin' problem
That ain't no reason to stop
People sayin' that I've hit rock bottom
Just 'cause I'm living on the rocks

ひとは俺が飲酒問題を抱えているという
それはやめる理由にはならないね
ひとは俺がどん底にいるという
なぜなら俺がオンザロックで生きているから

It's a brokenhearted thinkin' problem
So pull another bottle off the wall
People say I got a drinkin' problem
But I got no problem drinkin' at all

これは失恋による難儀な問題だ
棚からもう一本もらおう
ひとは俺が飲酒問題を抱えているという
だけど俺には飲むことになにも問題はないね

They keep on talkin'
Drawing conclusions
They call it a problem, I call it a solution

彼らはくっちゃべっては
勝手な結論を導く
彼らはこれを問題と呼ぶけど
俺にとってこれは解決法なんだ

Just sitting here in all my grand illusions
They call it a problem, I call it a solution
Just a solution

ただここに座って壮大な幻想に浸る
彼らはこれを問題と呼ぶけど
俺にとってこれは解決法なんだ
これこそが解決法さ

(対訳:前田将多)

 

酒は潤してくれるし、流してくれるし、浸らせてくれるし、濁してもくれる。沈まないようにだけはしなくては……。

Drink responsibly.

 

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