月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「なにかを嫌うことは自由だろう」

先々月、3月11日にライターの田中泰延さん、アートディレクターの上田豪さんとの酔っ払い鼎談の第3弾『僕たちはおかげさまでここにいる』を行なった。まだ外出自粛要請もされていない呑気な世の中であった……(はやく「大変だったね」と笑えるようになりますように)。

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みなさんからの献金によって、我々の交通費やスタジオ代を工面するという試みだったのだが、賛同くださった方々にはこの場で改めて御礼を申し上げたい。

第4回を実施するのにも充分な資金をお預かりしているのだが、いまは全国が緊急事態宣言下なので、また機を見てお目にかかります。

youtu.be

 トーク配信では、事前にご質問・ご相談を募集して、男三人がそれにお答えしていく形式であーでもないこーでもないとお話しするのだが、今回も多くのご質問をいただき、漏れてしまったものがある。

ややハードな内容だったので、インターネット配信の場ではパスさせてもらったのだが、ここで僕なりの見解をお返ししてみたいと思う。

ご相談は女性からで、以下の通り:

「いま付き合っている彼のことで相談があります。

彼と付き合って約3か月、最近彼と私の倫理的、道徳的価値観がだいぶ違うことに気づいてきました。
たとえば、彼は反中反韓で、これらの国の音楽でさえ受け付けないほど忌み嫌っています。私は国と人は分けて考えるので、彼に賛同することができません」

 このほか、勤め先の人たちは全員バカだと言って見下している。3.11の追悼についても「政治的意図が働いている」などと言って顧みる気持ちがない。まったく本を読まない。勧めてみても「書いてるやつはみんな自分より馬鹿だと気づいたから読まない」と受け付けない。
とつづき、「これからの私の身の振り方についてアドバイスをいただけるとうれしいです」と結んであった。

 

酔っぱらっているときなら「別れなさい! ダメだよそんな男」で終わりにしてしまうかもしれない。いや、シラフのいまでもダメだとは思うのだが、ものの見方として、もうちょっとなにかお伝えできることはないものかと、しばらく勘案してみた。

彼女がおっしゃる通り、国と人を分けて考えるのは賢明なことである。
それは逆に考えれば、日本政府がすることすべてを、日本国民である僕に「きみたちはどういうつもりなんだ」と問われても、この民主主義国家においてすら困ってしまう。

共産党独裁国家ならなおさら、市井の人民は「そう言われましても、カンベンしてよ」と思うことだろう。

少なくとも、僕も現在のチャイナの共産党政権と、サウス・コリアの文政権が対外的にやっていることに、およそ賛意を示せるものはない。

チャイナに関していえば、コロナ禍で世界が奔走する中、南シナ海島嶼を管轄する自治体として勝手に定めている三沙市の下に、さらに南沙市と西沙市を新設すると発表した。2016年にハーグの仲裁裁判所に領有権を否定されているのにもかかわらず、周辺諸国の神経を逆撫でするような行為をやめようとしない。

尖閣諸島の領海外側にある接続水域で、毎日のように海警局の船を航行させることもやめない。

台湾と国交があったパナマドミニカ共和国といった比較的小さな諸国に次々と圧力をかけて、それを断絶させた。同国は、WHO(世界保健機構)の会議にオブザーバー参加すら許されていないが、これもチャイナパワーによる。

台湾が国交を失う「本当の原因」とは? WEDGE Infinity(ウェッジ)

「一帯一路」構想に基づいて、「債務のワナ」を仕掛け、オーストラリアのダーウィン港、スリランカのハンバントタ港、ギリシアピレウス港の運営権を取得。途上国に対する露骨な新植民地主義で支配力を拡大するにとどまらず、コロナ暴落で格安となった欧州企業の買収を目論んで、弱った羊をハイエナが狙うように嗅ぎまわる。

新型コロナ:EU、買収規制強化へ 新型コロナで中国念頭 (写真=ロイター) :日本経済新聞

共産党政府の出先機関と目される「孔子学院」を(日本を含む)世界中の大学に設置し、プロパガンダの発信に余念がない。

チャイナではツイッターの利用は禁止されているはずなのに、「戦狼」報道官がツイッターで情報工作を画策し、それを各国にある大使館アカウントがリツイートし、多数の謎の匿名アカウントがさらに情報操作に加担するという。

WEB特集 アメリカと中国 パンデミック下の暗闘 | NHKニュース

「5G覇権」を巡ってのファーウェイ社の通信傍受疑惑も記憶に新しい(アメリカが強い拒否感を示すのは自分たちがやってきたことだから、という冷静な見方も忘れてはいけないが)。

以上はあくまでも対外的な活動であって、香港やウイグルを含め、国内でしていることも、現代の国際社会では到底許されることではないはずだ。

列挙すればキリがないが、チャイナ政府および大企業のやることには、なにひとつ賛同できることがない。好きになりたくても好きになれる要素などないと言える。

挙句の果てに、今回のウイルス災禍だ。
百歩譲って、感染病が発生してしまったことは仕方ないとしても、世界中で312万人が感染し、21万人(2020年4月30日現在)の命を奪った疫病の発生源としての態度とは思えない傲岸さは、あきれるほかない。

すべてに共通するのは、情報を開示せず、なにごとも水面下で秘密裏に進めようとする国家としての隠蔽体質である。それが国際社会、とりわけ地理的に近い国々に不安を与えていることに無関心であることが、まるで意思疎通のできない獣のように、恐怖をかき立てるのである。

日々モノづくりや農業に勤しむ一般の人には申し訳ないが、むしろチャイナのいいところがあるなら教えてほしいと思うくらいだ。麻婆豆腐以外に好きになれるところを探す方がむつかしいぞ。

 自由、民主主義、基本的人権という価値観を共有しない国になにを求めても無駄なのだろうが、ジャパンとチャイナは東アジア人という共通項があり、コロナ後の世界で根強く続いていくであろう「アジア人差別」に日本人も無関係ではいられない。

アジア以外の世界からは、チャイニーズもコリアンもジャパニーズも見分けはつかないのだ。

こういうアメリカンジョークがある。
「日本人と韓国人は、なぜもっと仲良くできないんだ! キミたちは、みんな同じ、中国人じゃないか!」

余談だが、僕は中国人と書くときいつも躊躇してしまう。
岡山県広島県鳥取県の人たちのことを思うからだ。東北人、関西人、九州人、中国人。おかしい。コピーライター/コラムニストとして、言葉の正しい用法には常に気を配っているつもりなので、そもそも「中国」という表記にも違和感が残る。
中華人民共和国を「中国」と呼ぶことはオッケーなのに、ジャパニーズを「ジャップ」と略すことは侮蔑なのだという。

世界中でチャイナとかシナ、チナと呼ばれる国なのだから、シナ人と書いてなにが差別的なのかまったくわからない。ここに差別的な意味合いはない。これに文句をつけてくる日本人に蔑視感情があるのだろう。

 

差別というのは、「いわれなき差別」のように、ネガティブな意味で使われるときには、行為や制度を指していう。尖閣諸島の国有化とはなんの関係もないのに、日本企業という理由で焼き討ちにされる、というのが差別に基づいた暴力であり、ヘイトによる犯罪だ(2012年)。 

日系企業を放火・破壊 トヨタ・パナソニック 標的に (写真=共同) :日本経済新聞

 

以上の批判は、政府の政策および人々の組織的行為に向けたものだ。

相談者が言うように「国と人は分けて考える」ことが肝要で、少なくとも僕は、日本国内への観光客には、それがどんなに大勢で、街の景色を短期間に一変させてしまった現象であっても、微笑ましい目で見ていた。
ミナミの街をドラッグストアだらけにし、チープなホテルを林立させてしまったのは、あくまでも貧しい発想しか持ち合わせなかった日本人ビジネスマンとデベロッパーのせいだ。

わざわざ旅行に来た人は、せめて我が国を好きになって帰ってほしい。

チャイナに赴任経験のある友人に話を聞いたところ、彼のチャイナ評はこうだった。
「チャイナはひとくくりにはできんな。内陸部と沿岸部で、人、食事、文化がぜんぜんちがう。共産党政府がそれを無理矢理に束ねている。なんでもありで、なんでもありではない不思議な国。至るところに矛盾を抱えた国家なんだよ」

まぁ、好意的に見るならば、14億人を抱える政府も大変なのだろう。巨大な国に充分な食い扶持を見つけるのに必死なのはわかる。

ただ、ほかの国の人の安全を脅かすことはやめてほしい。ビジネスでも外交でもルールいうもんがある。……言うても無駄だが。

さて、日本および世界の安全保障は、今後ともアメリカとチャイナの二大国家がどのような渦を巻き起こすのかにより、様々な影響を受けるという視座は変わらない。

日本は地政学的条件とパワーバランスの中で、ますます難しい舵取りが求められる。

つまらない結論になってしまったが、最後に申し上げる。

僕はこれを書くにあたり、「チャイナの友人にも堂々と読ませることができる言説」であることを意識した。事実に基づいた批判であり、考えの足りない人が安易に飛びつくヘイトスピーチとは大きく隔たりのあるものであることはお分かりいただけるはずだ。

人であれ、国であれ、なにかを嫌うことの自由は認められている。前述のように、それを不法行為で表現したり制度に反映させたりすると差別になる。
だから、もちろん、日本を嫌うことも、僕を嫌うことも自由にしたらいい。
それをどのように表現するかが、知性というものだ。

付言するなら、どこの国の人であれ、機会があれば一緒にグラスを傾けることに対して、僕のドアは開けておこうとは考えている。

「ワタシはどの国のことも、誰のことも嫌いではありません!」などという意識高め知能低めの偽善者は、国や故郷や家族が滅ぼされてもそう言えるだろうか。

香港の人の恐怖感や、台湾の人の危機感を理解できているだろうか。

 

……って、相談者のあなた、まだその彼氏と付き合ってる? 元気にしてる? 
これを読ませても「こいつはバカだ」と言われるかな。まぁ、いつもは解決策を空想でも書くのに、今回はなにも提示できないバカなんだけど。