月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「自分以上に信じたい人はいますか?」

ケニー・ロジャースが2020年3月20日に、81才で老衰のため亡くなった。

日本では知っている人は少ないかもしれないが、アメリカの国民的スターと呼んでも差し支えないカントリー歌手であった。
わかりやすい例を挙げると、1985年に”U.S.A. for Africa”というアフリカの飢餓と貧困救済のキャンペーンのために、ビッグアーティストたちが歌った”We are the World”の歌。
超有名な歌手たちが集ったから、だいたいどれが誰かわかると思うけど、ケニー・ロジャースはおわかりになるだろうか。

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前半に、ポール・サイモンのあとに出てくるのが彼である。
ケニー・ロジャースの歌声は、大人っぽい深みがあって、カントリーらしい鼻にかかったところがあり、セクシーな割れがあり、なんとも言えないやさしさがあるのだ。

僕自身はケニー・ロジャースよりも新しい世代のカントリーを愛好してきたのだが、僕の父親が大変好きだった歌手なので、ケニー・ロジャースといえば亡父を連想する。
アメリカに住む弟からも「ケニー・ロジャースが亡くなったな」と、一言だけメッセージが来た。僕の家族にとっては、それだけでわかるのだ。
「親父が好きだったよな。なつかしいね」という含意が。

そんなわけで、恒例のカントリーソングの邦訳です。

ケニー・ロジャースの絶品のバラード、“She Believes in Me”は、売れないカントリー歌手が主人公のラブソングである。
駆け出しのカントリー歌手というのは、夜な夜な全米各地のナイトクラブ(日本でいうライブバー)でドサまわりをするのが通例だ。
だから、家を空けることが多いし、夜遅くまで帰宅しない。

おそらくこの歌の彼も、日々酔っ払い相手に歌声を披露しては、もっと大きなハコから声がかかることや、レコード会社からスカウトされることを望んでいるのだろう。
奥様(または彼女かな)は、そんな彼がきっといつか売れることを信じて、ベッドで待っている。
彼は、辛抱を強いている彼女に申し訳ないと心を痛めつつ、深夜にやはり自分が信じる曲を作り、歌を歌い、彼女を想うのである。

夢を追ったことがある人ならきっと理解できる、胸がしめつけられるような一曲のはずだ。
「そんなふうに誰かを信じて、なにかを願ったことはあるか?」と問われるようで、自分のことで手一杯の下卑た人生に、恥じ入る思いがする……。

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“She Believes in Me”

 While she lays sleeping, I stay out late at night and play my songs
And sometimes all the nights can be so long
And it's good when I finally make it home, all alone
While she lays dreaming, I try to get undressed without the light
And quietly she says how was your night?
And I come to her and say, it was all right, and I hold her tight

彼女が寝ているあいだ
僕は夜おそくまで帰らずに僕の歌を歌う
ときどきそんな夜がとても長く感じられる
ひとり家に帰り着いてほっとする
彼女が横になって夢を見ているあいだ
僕は灯りをつけずに服を脱ごうとする
今夜はどうだった? と彼女は静かに言う
僕は彼女の枕元でよかったよと答え ぎゅっと抱きしめる

And she believes in me
I'll never know just what she sees in me
I told her someday if she was my girl, I could change the world
With my little songs, I was wrong
But she has faith in me, and so I go on trying faithfully
And who knows maybe on some special night, if my song is right
I will find a way, find a way

彼女は僕を信じてくれている
彼女にとって僕のなにがいいのか 僕にはわかることはないだろう
僕はあるとき言った
もしも彼女を僕のものにできるなら
僕の歌で世界を変えてみせるって
僕はまちがっていたみたいだ
それでも彼女は僕を確信してくれている
だから僕は信念をもって挑戦をつづけるんだ
誰にわかるってんだ もしかしたらある特別な夜にさ
僕の歌がちゃんと届くことがあれば
僕にも道がひらけるだろう 道はひらけるさ


While she lays waiting, I stumble to the kitchen for a bite
Then I see my old guitar in the night
Just waiting for me like a secret friend, and there's no end
While she lays crying, I fumble with a melody or two
And I'm torn between the things that I should do
And she says to wake her up when I am through
God her love is true

彼女が横になって待つあいだ
僕はよろよろとキッチンへ行ってなにか口にする
そして夜の闇の中に ひみつの友達のように僕を待つ古いギターを目にする 
またはじまるよ
彼女が横になって泣くあいだ
僕はひとつふたつのメロディーをもてあそぶ
僕が本当にすべき事どものあいだで 僕の心は引き裂かれる
彼女はおわったら起こしてねと言う
神様 彼女の愛は本物だ

And she believes in me
I'll never know just what she sees in me
I told her someday if she was my girl, I could change the world
With my little songs, I was wrong
But she has faith in me, and so I go on trying faithfully
And who knows maybe on some special night, if my song is right
I will find a way, while she waits while she waits for me

彼女は僕を信じてくれている
彼女にとって僕のなにがいいのか 僕にはわかることはないだろう
僕はあるとき言った
もしも彼女を僕のものにできるなら
僕の歌で世界を変えてみせるって
僕はまちがっていたみたいだ
それでも彼女は僕を確信してくれている
だから僕は信念をもって挑戦をつづけるんだ
誰にわかるってんだ もしかしたらある特別な夜にさ 
僕の歌がちゃんと届くことがあれば
僕にも道がひらけるだろう
彼女が待つあいだ 彼女が僕を待つあいだ

 

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ライオネル・リッチーとは本当に仲がよかったみたいで、微笑ましいデュエットのバージョンもあります。

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ケニー・ロジャース氏に、数々の素敵な歌への感謝を捧げるとともに、冥福を祈りたいと思います。