月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「これでスッキリ」

ある時ふと、「日本には都道府県が多すぎるのとちがうか」という考えが頭をよぎった。冒頭なので、故意に表現を丸くしたのだが、正直に告白すると、実際には「滋賀県とかいらんのちゃうか」と思ってしまったのである。滋賀県の人々、すまん。
四十七の都道府県にそれぞれ、県庁があって、膨大な数の職員がいて、議会があって、これまた膨大な数の議員がいる。関連団体もいくつもある。
……いらんのちゃうか? と思った次第である。
そこで、先進各国の地方自治体の数と人口を調べてみた。
【国名(五十音順)】 【自治体数】 【およその人口】
  • アメリカ       50州    2億9000万人
  • イタリア       20州    5800万人
  • オーストリア     9州     810万人
  • オランダ       12州    1580万人
  • ジャパン       47都道府県 1億2000万人
  • スイス        23カントン 720万人
  • スウェーデン     24県    890万人
  • スペイン       17自治州  4300万人
  • デンマーク      14県    530万人
  • ドイツ        11州    827万人
  • フランス       22州    6050万人
  • ベルギー       9州     1020万人
これを見てみると、日本の人口のおよそ半分のイタリアやフランスには、やはりおよそ半分の州があり、人口十三分の一しかいないスウェーデンに二十四も県がある。
う〜ん、僕の意見を補強してくれるはずが、「日本も結構ええ数なんちゃう」という、可もなく不可もない結論に導かれかけている。
しかし、実際に民主党とかPHP研究所なんかは「道州制」による地方自治体再編成を唱えている。それは、十いくつかの州に都道府県を統合して、それなりの自治権を持たせて、中央に関しては、いわゆる小さな政府にしていこうという構想である。
これについていいの悪いのを言うには、いっぱいお勉強しなくてはならなくなりそうなのでやめておこう。でも、僕は基本的には、日本に四十七も都道府県はいらなくて、もっと少数にまとめちまっていいのではないかと、ボンヤリと「台所感覚」で考えている。
こういう話をすると、「それぞれの地名には歴史や由来があり、これを軽んじるのはケシカラン! キエー!」という年寄りがいっぱい出てきそうなので、一言言っておく。江戸時代には、日本は藩という地方自治体が存在していたわけで、歴史を語るなら、地名や統治方法はその都度、変遷してきている。自分が生きている限りの「歴史」に固執するよりも、その変動に立ち会える方が僕はよほど尊い経験だと思うのだが。キエー!
許しがたきは、西東京市のようなセンスのないネーミングである。
東京の保谷市田無市が合併してできたのが西東京市だ。東京の市は、「二十三区」という威光の陰で肩身の狭い思いと被差別意識を抱いてきたわけだが、殊更「東京の一員」ということを声高にアピールしたくて、付いた名前が「西東京市」。
地図を見れば、東京都の中央やや東寄りに位置しているくらいなのに、名前は「西東京市」。もっと西には小平市とか八王子市とか立川市とか、市はいっぱいあるのに、それでも「西東京市」。
言いたいねん。二十三区以外は東京にあらずだから言いたいねん。「東京」って。
こういう自らの劣等意識と憧憬が入り混じった、マンションデベロッパー並のしみったれたネーミングなのである。
あ〜ぁ、カッコわる。
忌むべきは、西東京市さいたま市などの、センスなきネーミングであって、自治体再編成そのものではない。
まず、前出の滋賀県であるが、京都とくっつけてしまった方が、滋賀としても、なんとなくグレードアップしたような気になるからいいのではないか。その方が、間違えて来ちゃった観光客も増え、地元も潤うのではなかろうか。
なんだか大企業に吸収されて突然その有名企業の名刺を持たされちゃった零細企業のおじさんみたいに、悔しいやら面映いやらの、ちょっぴり甘酸っぱいひと夏の経験になるのではないだろうか。
栃木、群馬、茨城の三県も、いまっだにどれがどこだったか並び順がさっぱりわからないので、一緒にしてしまってはどうか。まるで亀田三兄弟のように見分けがつかないから、ひとつにして「亀田州」とでもしたらいい。
鳥取県島根県も、イランとイラクのように紛らわしいから、まとめよう。「烏根州」。
でも、よく見ると「トリネ」ではなく、「カラスネ」なのである。
紛らわしさはなんとか保存したいという地元の声を聞き入れて、こういう結果になった。「残そう まぎらわしさ 烏根州」というPRポスターを十二万部ほど印刷してそこら中に貼ろう。
東北地方は言わずもがなだが、東北州にしよう。しかし、その際、福島県の立場が微妙で、東北州に加入していいものなのか、「オレはそこらの東北地方とは、ちと違うゼ」的なプライドと近隣との協調性の間で心揺れ動いている。そんな時、新潟県がすっくと立ち上がる。
「雪深いイメーズは、こっつの方が上だで、ワスが入るっぺ」と、福島県と交代して、東北州加入を申し出る。ところが、その際、福島と新潟が思わず位置まで交代してしまったために、結局元々福島であった場所が東北州に入ることになる。なんのこっちゃ。
ここの部分は、将来の地理のテストに頻繁に出題されるひっかけ問題となるだろう。
奈良県は「アタシ、なんだか海が見たいわ」という理由だけで、大阪と合併する。しかし、三重と和歌山の連合も、「こっちにも海はあるでー。奈良が追加されても、デンデンかまへんよー」とスカウトにやってくる。
注:和歌山の人は、「全然」を「デンデン」と発音するのだ。
大阪か、三重・和歌山か、思い悩む奈良。まるで巨人軍に入って、熾烈なレギュラー争いをするか、楽天イーグルスで楽々レギュラーの座を確保するか逡巡する甲子園球児のように……。
しかし、たいていの野球選手は長いものには巻かれて巨人軍を選ぶ。
だから、奈良も大阪入りをする。
それにより、二十五年間くらい変わっていない近鉄電車奈良線の終電時間が少しでも延びることを、僕はとりあえず期待する。ちなみになんと、快速急行は十一時四〇分である。
岡山のように、僕にとって何のイメーズもない県はどうしてくれよう。岡山。実在すら怪しい。兵庫の人が岡山だと思っている場所は、本当は広島で、広島の人が岡山だと思い込んできた場所は、実は兵庫なのではないだろうか。はなわの名曲「佐賀県」の中で彼は、佐賀県のキャッチコピーが「佐賀をさがそう」だったと笑っているが、岡山もかなり近いものがある。
きっと、修学旅行の班分けにあぶれてしまい、先生が仕方なく隣りの席の生徒グループに引き取らせる大人しい生徒のように、広島君と山口君あたりに引き取られるのだろう。
兵庫みたいな優等生は、大阪・奈良の不良グループを敬遠して、あえて広島班の方に行きそうな気がする。そんでもってその広島班は、烏根州と合体だ。これでスッキリである。
首都東京に関しては、僕はこの国の一極集中こそが、この国をつまらん国たらしめている根因だと思っているから複雑であるが、自治体再編と首都機能移転を一気にやるのは大変なので、ひとまずは、二十三区のみを東京特別区とする。その周辺の市と、神奈川、千葉、埼玉を融合させて一つの州とする。ネーミングは、なんかセンスいいのを電通にでも考えてもらおう。僕はその頃、サミット出席とかで忙しいと思うので。ワッハッハ。
あー、なんか、日本にとってすごくいいことをしたような気分になったので、今日は寝つきが良さそうである。
(了)