とあるファッション雑誌編集長がフライデーされた。記事によると、こうだ。
「あーぁ、ショウに出たかったなぁ」
次に、「ショウにも出られたし、抱かれた」という時。 その場合、女は編集長を訴えただろうか。
「ショウに出してくれた代わりに、ワタシの体を散々貪ったんです!」
そんな理屈が通用するだろうか。おそらく、「お前カラダで払って仕事買うとるやないか」との批判を怖れて、女は沈黙を守るのではないだろうか。ということは、抱かれたことが問題なのではなく、ショウに出してもらえなかったことが問題ということになろう。
普通に考えたら(フライデーが読者に期待するように受け取るなら)、「立ち場を利用して、弱い者を搾取した」ということになるのだろう。しかし、上記を考慮に入れるなら、ちょっと様相は違って見えないか。
お互いに得るものを得たのだから、いいんでないの? と思うのは人権軽視だろうか。古今や洋の東西を問わずそうなのだから、これは男女の性(さが)であり、今後もおそらく改善はされることはない。銀座や北新地もそういう思惑交差点の上に成り立っている。週刊文春が正しいなら(きっと正しいんだけど)、大手レコード会社もそういうコトらしいし。ハリウッドもそうだって北野武監督が言ってたし。広告業界は違うけどね。広告会社に決定権ないから。
では、「ショウには出してもらったが、抱かれるのは断った」時にはどうなる? 編集長は、涙ながらに告白するだろう。
「あの女、私の口利きでショウに出ておいて、ヤラせてくれなかったんです!」と。 「私の職業と地位を弄ばれたんです!」
なぜこれが通用しないのだろうか。ショウに出たいという希望を「夢」などと呼ぶなら、ヤリたいという、この透き通るようなピュアな気持ちはどうしてくれる。「売れたい」も「ヤリたい」も、個人的な欲望という意味においては同等ではないか。それによって一票の格差が是正されるわけでも、食糧危機が解決するわけでもない。
そのファッションショウの主催者はそもそも「K氏にキャスティングの権利なんてありません」と一笑に付している。たとえあったとして、K氏がA子をショウに出演させる義務も理由もない。特に出したくもない。出すメリットはないのだ。
世の中には、三種類の人間がいる。善悪を基準に行動する人。正誤で動く人。そして、損得で判断する人。 善悪と正誤は区別がつきにくいかもしれないが、前者はたとえば、規則には背いているけどその方が(倫理的や合理的な意味合いで)善いと考えるから行なう人である。 K氏は損得で動いたのだ。仕事に関わることにおいては、大概の大人は損得で動くと思って間違いない。
繰り返すが、K氏にA子をショウに出すことのメリットはないのだ。K氏くらいになれば、仕事を得たいモデルや事務所からのアプローチなど毎日のようにあるだろう。それをいちいち善悪で判断して厚意を遣っていたら、ショウなど客千人に対して、モデル五千人とかになってしまう。 逆にA子の方は何を思ってK氏にアプローチしたのだろうか。K氏が進んで推すのは、「お客のためになる、もしくは集客に貢献するモデル」だけだろう。自分がそうでないとするなら、何を求めてK氏に近付いたのか。
思惑があった。両者に思惑があり、片方はそれを提供したのに、返してもらえなかった。それだけのことなのだ。何かを期待していたのだ。それに応えてもらえなかったから裏切られた気持ちになっただけのこと。
淋しい話だ。 今後は考え方を改めなくてはいけない。
「ヤラせたのに、仕事はもらえなかった」。こういう受け身の考え方でいるから、仕事も得られないし、人のせいにする体質のままなのだ。 こういう時は「仕事はもらえなかったけど、とりあえずヤッたった」だ。 そして、「次いこ! 次!」と前を向けば、いつか仕事にも恵まれるだろう。
「仕事をもらうために、ヤラせるハメになった」は違う。 「ち〇ちんイワしたった上に、仕事までゲットした!」 これぞ一石二鳥。ダブルでハッピーだ。編集長はシングルハッピーだから、君の勝ちだ。
そんなのは受け容れがたいとおっしゃる向きのために、言っておこう。
A子さんが過ちを犯したとするなら、「初めての食事とバーのあとにホテルについて行った」ことだ。この時点で断るべきだったのだ。 お金も払われてないのにうどん出しちゃうから食い逃げされるのだ。こういう時はキャッシュオンデリバリーだろう。 ギャングだって 「カネは持ってきたか!」 「ブツを確認してからだ!」 とやるでしょう。
怖くて言い出せなかったとかいうのは、申し訳ないけど通用しない。大事なことをはっきり言わないと、命だって失うこともあるよ。それが厳しいこの世の中だ。 真珠湾攻撃だって、宣戦布告の声明は出来上がっていた。それなのに大使館員がモタモタしていたがために、歴史に奇襲ということで記録され、我々日本人は卑怯者呼ばわりされる結果となったのだ(ちなみに、その後のどの戦争でも、宣戦布告してからおっぱじめた事例はない)。
言下に断って仕事を得ないか、こう言って仕事を得ないか、しかない。
「私は仕事を得るために男の人と寝ることはしません。今夜のことは忘れてください。私はいつか最高のモデルになって、今度はKさんの方から仕事を依頼していただけるようにがんばります。それでいいでしょうか」
フツーの男なら、こうまで言われてしまっては、あとは 「わかった。これからもがんばりなさい」 とカッコつけて、タクシー代でも握らせて別れるしかないのだ。
粘り強い男なら 「わかった。仕事は忘れよう。……仕事抜きで、一発ヤラせてくれ」 と純粋な瞳でウィンウィンな提案を持ちかけてくるだろう。 こういう人が結局はのし上がるから、世の中こういう男ばかりですみません。なんで、オレが謝らなあかんねん。
オレだったらそんな際「うわ、てことは月曜になったら、プロデューサーのあいつと、イベンターのあいつに電話して、このコをなんとか押し込まなあかん!」というプレッシャーに押し潰されて、全然心がのびのびできなくて、アレがのびのびしないもん。律儀か。
そして、可能性としては、彼女はいつか、故郷へ帰ることになる。 哀しいかなそういうことだ。
それではあんまりだ、どうすればショウに出られるかって? 知るかい。運だろ、運。 知ってたら、オレが出てるわ。三十九才のおっさんだけど、それをモノともせずにオレが出てるわ。
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