月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「それは大人のものだ」

読売新聞の、しかも朝刊にこんなマヌケな「読者からの相談」が載っていたので、思わずここに紹介してしまおう。
「成人映画をコソコソ見る夫」 四〇代主婦 いい年して情けない
(前略)相談は夫のことです。夫はマザコン気味ではあるものの、優しく、家族思いです。以前、風俗通いが発覚し大げんかしましたが、それ以外では女性問題はありません。しかし、夫婦生活は三ヶ月に一度あるかないか、しかも私から誘うことがほとんどです。先日夜中にのどが渇いて起きると、夫がリビングで成人向け映画に一人で耽っていました。私に気づいたようで、あわてふためいていましたが、一部始終を見てしまいました。いい年をして、家庭で、夜中にコソコソH映画を見るなんて!(中略)情けなく、むなしく、怒りも覚えます。今後夫にどう接したらいいのか、ご助言をお願いします。
こんな相談を持ちかけられた映画監督の大森一樹さんも苦笑気味である。曰く「思わず身につまされるが、どこの家庭でも思い当たること。もう少し寛大であってもいいのでは」。そして、最後は、「夫婦関係は心と体のバランス。そのバランスの妙を大切に」と、とっても苦しい回答をしている。あんまり意味はよくわからない。
こんなしょーもない相談をわざわざ全国紙に投書してくる人間の神経がわからない。そんな相談はご近所との井戸端会議で済ませてもらいたいものだ。
  • 「うちのダンナがね…」と切り出せば、
  • 「えっ、実はうちも」
  • 「うちもなのよー」
と、ひとしきりアダルトビデオ談義に花が咲き、なんなら、隣りの家庭の性的志向、プレイ形態、マンネリ夫婦性活へのスパイス的アドバイスまで入手できるかもしれないのだ。言うまでもなく、そんな貴重な情報は全国紙上では、決して手に入らない類のものだ。
そうすれば、「成人向け映画は成人のための映画である」という、そもそもの存在意義に気付くことになる。そうなのである。成人向け映画を成人が見て何が悪いというのだろう。
それは、硬式用バットで硬球を打つ、ビッグサイズをデブが着る、多い日に多い日用を使う、そんな当たり前というか、正しい使用法なのではないのか。
Hビデオもよう見やん主婦たちは知らないかもしれないが、Hビデオのパッケージには「用量・用法を守って、正しくお使いください」と書いてある。
よく見れば小さい字で「試聴により、疾病が治癒したり、より健康を増進するものではありません」とも書いてある特保ビデオなるものまである。いや、真に受けないでほしいが、それくらい日常生活に不可欠なものである、ということが僕は言いたいのだ。
では、夫が夜中にビデオを見ていたら、妻はどう対応したらいいのか。僕の答えはこうである。
  • 「コラ、何見てんのよ」
  • 「え、あ、これは、そのあの……」
  • 「ちょっとワタシにも見せてよ」
  • 「えー、いや、それはなぁ」
  • 「いいじゃない、用量・用法を守って使えばいいんだから」
  • 「そ、そうかな」
  • 「へー、こんなことするんだー」「こういうのがいいんだー」
  • (中略)
  • 「じゃ、ワタシがしてあげるワ」
  • 「そんな、ボクはこんなのしたことないから……」
  • 「いいの、黙って」
加代は、隆夫のボタンを外すと、自らもパジャマを脱ぎ始めた。堅いフローリングの上ではあったが、そんなことは意識の奥に追いやられ、官能の炎が二人を飲み込んでいく。加代が、夫の○○を××すると、△△が次第に**していき、やがて%&?が@!$になると、※#♪……(後略)。
ナイト・トゥ・リメンバー。フランス書院(※注釈)顔負けの、忘れられない夜の出来上がりである。
チープやなぁ。チープだけど、夫婦のセックスなど本来チープなものである。
夫がアダルトビデオを見たくらいで大騒ぎするような、つまらん妻だから、夫が風俗通いしたり、ワンクールに一度あるかないかのような「わしゃ、番組改編か」というセックスしか享受できないのである。もっと普段から自由闊達な議論をしてだね、ご意見ご要望を的確に伝えてだね、刺すか刺されるかの緊張感を持ってだね、くんずほぐれつしていきたいものなのである。そして、生意気な早熟中高生なんかにゃ十年かかっても太刀打ちできないようなだね、大人の実力を蓄えてだね、「トヨタマークXはカッコいいけど、若造のボクには乗れないな」というように「セックスは興味あるけど、ボクにはまだ無理だな」という畏怖にも似た感情を惹起することが、日本の性の荒廃の抑制になっていくわけである。
いや〜、言うてることよくわからなくなってきたよ。
とにかく、Hビデオくらいでガタガタぬかさず、抑圧よりも解放で、隠匿よりも開陳で、大人に我慢を強いるな、なぜならセックスは大人のものだからだ、ということだ。
開チン、我マン。ワオ!
(了)
※注釈:フランス書院ってのは、ポルノ小説を数々出している出版社である。なぜか駅の売店の隅とかで売っている黒い表紙の本である。