月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。2003年より書いていた月イチコラム「月刊ショータ http://monthly-shota.jp 」をhatenaに転載しました。そのため、一部お見苦しい点があることをご容赦ください。

「エッチやで、おっさん」

先日、僕の実家に帰っていた時のこと、テーブルにうちのおやじがプリントアウトした資料や、週刊誌の切り抜きが置いてあった。なんだろうと気になって手にしてみると、それは「九・一一の同時多発テロアメリカ合衆国政府の陰謀か!?」という内容だった。
簡単に説明すると、ワシントンDCの国防省ペンタゴン)は、マンハッタンのワールドトレードセンターと同様に航空機によって破壊されたとされているが、細かく検証するとおかしな点がいくつもあるそうな。飛行機が突っ込んだにしては開いた穴が小さいとか、高純度の燃料を積んでいたにもかかわらず爆発を起こしていないとか、低層階しか破壊されていないとか、辻褄の合わない点を列挙すれば数え切れないらしい。
あれほど繰り返し全世界に向けてテレビで放送された、ワールドトレードセンターへの特攻についても、民間機なのに窓が確認できないとか、機体の下に不自然な(ミサイルのように見える)物体が付いているとか、突撃の瞬間に先端が閃光を放っているとかとかの証拠写真と云われているものが掲載されている。
こういった陰謀説であるとか、ミステリアスな事件というのは人をゾクゾクさせ惹きつける魅力があるが、僕は「だからなんやっちゅうねん」という思いが断ち切れず、あまりのめり込むことができない。
JFKの暗殺であれ、マリリン・モンローの死因であれ、フリー・メイソンという秘密結社の正体であれ、確信を抱いた一部の専門家や研究者以外の、僕のような市井の凡人には、結局真相はわからないのだ。だから、本当に真実といえるものが明らかにされる日まで、気持ちの悪さが残ってしまう。
そして、現実は、そういう日は決して来ない。
ところが、僕のおやじはそういうミステリーが大好きなのだ。以前に書いたが、だからこそUFOの研究までしてしまう。ふと思い付いて、おやじに出し抜けに電話などしてみた。
  • 「おやじ、つかぬ事を訊くけど、UFOって一体なんなん? おやじは何だと思ってる?」
  • 「UFO? なんや」
  • 「いや、昔、本をいっぱい読んでたろ。それを踏まえて、あえて答えるとするなら、UFOって一体なんだと思う?」
  • 「……わからん」
  • 「わからんのか、あれだけ本を読んでおいて」
  • 「UFOは、Unidentified Flying Object(未確認飛行物体)だからUFOなんだよ」
……とのことだ。「わからん」が答えなのだ。わかっていれば「UFO」とは呼ばない。
我ながら、長距離電話を使ってエライ親子の会話をしたものだ。電話を切ってから、おやじはキョトンとしていたことだろう。
UFOひとつとっても、何が正しくて何が間違っているか、もはや不明で、過去に挙げられた数々の「証拠写真」も真偽のほどは闇の中にある。アダムスキーというおっさんが発見した、最も有名な「アダムスキー型」のUFOですら偽物説があり、米軍がどうの、マジェスティック・トゥウェルヴがどうの、しかし、証拠と云われるもの一つひとつの真偽すら混沌としていて、グチャグチャである。
とにかく、「ただ、何か飛んでるらしい」止まりで議論は停滞を余儀なくされる。
あ、おやじの名誉のために言っておくと、別におやじは何かの団体に所属してUFOを呼び込んだり、宇宙との交信とかは試みていない。
そういえば、おやじのパソコンの横に、「初の人口減少」という、国勢調査の結果を述べた新聞記事の切り抜きがあった。何年も前に定年退職して、ほとんど引きこもり生活をしているおやじが、今度は何を知りたいのだろう。
事実は小説より奇なり、というけれど、小説なら犯人は明かされ、真相も最後には白日の下に晒され、スッキリである。文庫本なら安いし。
歴史など、何が本当か分からないことだらけで、要するに、「もはや誰が見たわけじゃない物事の集合」だ。これってとても怖いことではある。事実(とされているもの)の連鎖の末端に我々がこうして存在しているのに、それを手繰った先が事実でなかったら……。
日本人の僕らは当たり前だと思っているダーウィンの進化論だって、大国アメリカの一部の人間は信じていない。インテリジェント・デザイン(ID)論というのがあり、「なんらかの知的な存在」、つまりは神がこの世を創ったのであり、人間は猿の進化系ではない、と主張する。これも結局真実は誰が証明できるねん、という話だが、人々の常識の問題だから、議論は平行線を辿る。常識が違うのだから、仕方ない。
  • 「お前、進化論すら信じてないのか?」
  • 「はぁ? お前は進化論なんか信じてるのか?」
となる。
創世の瞬間や、人間の始まりなど、うちのおばあちゃんのおばあちゃんだって見ていない。
しかし、自分の手を眺めてみると、確かによくできていて、指があって、その先に爪が付いているから、缶ジュースを開けられたり、引っ掻いたりできる。爪がなかったら、蚊に刺された時にどう対処したらいいんだろう。親指が下に付いているからこそ、バイクに乗った時にクラッチを握れる。実によくできている。
信じる信じないはともかく、手ひとつとっても「なんらかの知的な存在」による緻密かつ精巧なデザインを感じさせる。
新婚らしく、一緒にお風呂など入っていた我が新妻が、僕のティムティムを見て、「エッチなかたちねぇ」と感心したような声を漏らした。
なにをぬかすか、女性の方がエッチじゃい! 僕のティムなんかシュッとしてるわい。
まだ汚れを知らない、子供が生まれる仕組みを知らない、青春真っ盛りの僕が初めてオ○コを目にした時の衝撃をどのように伝えてやろう。あの、筆舌に尽くしがたい、にわかには信じがたい、脳裏から消去しがたい、特殊な形状。どんなに澄ました女子でも、こんなものが股に、股にぃ……。お前らみんな、なんちゅうウソつきじゃい。思い返せば、僕がイマイチ女性を心から信用できない病は、この瞬間から端を発したのではなかろうか。
しかし、「知的な存在」が、もしかしたら粘土の人形みたいなものを二体持って、「え〜と、こういう棒がだな、ああいう穴に入って、こうしてああすると気持ちいい。よっしゃ、そうしよう!」などと企画中の姿を想像すると、エッチやでぇ、おい、おっさん。
だいぶ「痴的な存在」やで、あんた。
頼むから、その企画書を見せてくれ。

(了)