月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「まだ見ぬ娘への十箇条」

人生とは実に皮肉なもので、いい人間になろうと努力している者が必ずしも異性からモテない。僕がこれに気づいたのは、成人してかなりの時間が経ってからのことだと思う。というか、つい最近のような気すらする。
女性について言えば、頭脳明晰で、六ヶ国語を自在に操って、その上美人だったりすると確実にモテない。正確に言うと、モテないわけではない。相手にされないのではなく、男性がビビってしまっているだけなのだが、不利益としてはモテないことと差異がないので、そういうことにさせてもらう。
男性であれば、毎朝、日経新聞に加えてワシントンポスト紙とロンドンタイムズ紙に目を通して世界の情勢を睨み、オーガニックな食物中心の食生活を実行し、腹筋背筋腕立て伏せを欠かさず、日中のみならず、睡眠中であってもオナラはしないし、コンパに行っても(あ、行くんや……)美人ばかりにやさしくせず、ブスにも平等に話をふり、犬のウンコを踏んだ瞬間にハトのウンコが落ちてきても「Fワード」などの汚い罵り言葉は使わず、足の不自由なばあさんを背負ってスクランブル交差点でポールポジションに立つ、そんな男は絶対にモテない。
そんなヤツらがモテるようでは、人類のためによくないのだ。
そこまでなれないボンクラなボクらでも、ヤツらよりもモテる可能性があるからこそ、明日も元気に生きていくことができるのだ。
役者きってのモテ男(らしい)、奥田瑛二氏がインタビューで言っていた。
「歴史的に見ても、だらしない体の男はモテるのだ。ナポレオンもそうだった。体なんか鍛えてる男は、人を愛する前に自分を愛しちゃってるからダメなんだ」だそうな。
おそらく、これは本当だ。シックスパックの腹筋を完全に持ち腐らせた僕が言うのだから間違いない。そして、僕の周りの、僕よりもモテてる男は、割とプヨっている。
気をつけの姿勢で自分のチ○コが目視できなくなるようでは、そんなヤツは死んでしまえ、と僕は思うのだが、横腹の少々のプヨり方くらいではヘコたれないくらいの人生の円熟味は持ち合わせた方がいい、と最近、考えが変わってきた。
横腹のあたりにつく贅肉は、「やさしさの象徴」、「人生の余裕の表れ」なのだ。入社当時はビッチビチにお腹が割れていた僕も、現在でははっきり言って、プヨッてきた。まだモテるには至ってないが、楽しみに育てている。
よく言われるように、魅力というのは、不完全さの中にあるのである。たとえば、なくてもいい気がするけど、いや、絶対あった方がいい口元のホクロ、ちょっと尖りすぎている鼻、シャツの膨らみかなと思ったら、しっかり中身も詰まってるお腹の感じ、などなど。
こういうのがセクシーの源なのだろう。
とは言え、セクシーなだらしなさを、人間としてのだらしなさと履き違えてはいけない。ここを間違っている人が多いから、ダメな男ほどモテてしまう。事実、ダメ野郎ってのは、不思議なくらいにモテる。ミュージシャンがモテるのも、理由の一端はここにある。そこに気づかず、自分から不幸を掴みに行っちゃってる女性が多すぎるのだ。
これは、これから生まれてくる自分の娘に対して、何度でも言いたい。
僕には女性が何を考えて生きているのか全くわからないので、まだ見ぬ娘に対してアドバイスできることはそう多くない。
即座に思いつくのは、「靴は履く分しか必要ない」ということと「カバンは一個ダメになってから買えばいいのだ」ということだ。
そして、もっと重要なこととして「男を見る目は養って、養いすぎることはない」というのがある。正確には、「見る目」などという曖昧なものではいけない。「見抜く洞察力」「気づく分析力」、そして「結論付ける決断力」である。
株価を追うデイトレーダーのような眼つきで、男を見てほしい。
そいつの今の価値などよい。これから上がるのか、下がるのか。外見なんて下がる一方だ。上がるなら、どこが上がっていくのか。
そんな女はきっとモテへん。いや、モテなくてもいい、逞しく育ってくれれば。
断っておくが、「女性の幸せが、男性に依存している」ということを言いたいのではない。そういうフェミニスティックな議論は、この際関係ない。う〜ん、関係ない、というか、「人生の幸福が、共に過ごすパートナーに左右される」ということは男女に限らず真実である。パートナーの有無、そして、その性質に影響されることは認めざるをえないだろう。
で、「男を見抜く力」であるが、本当に今まで見る目のない女性を多々見てきたもんだ。たいてい、かわいい。そして、全員、僕とは付き合っていない。
以下、娘に遺したい十箇条である。娘以外の女性にも有効な、ありがたい言葉なので、精読し、できれば暗記していただきたい。
(つづく)