月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「ラブホテル村に行きたくはないのか」

以下は、信じられないような実話である。

僕の取引先に〇村さん(あえて伏せます)という方がいる。その方からのメールを携帯電話で確認すると、必ずお名前が[ラブホテル]村と表示されるのだ。その〇に入る漢字はちょっと珍しいのだが、文字化けというか、変換というのか、その原因は僕にはわからない。

急いでいる時は携帯から返信を打つこともある。その際、ふと疑念がよぎる。
僕の携帯に[ラブホテル]村と表示されてるということは、ここから送った返信は、変換されたままの文面で届いてるのではないかとヒヤヒヤするのだ。

「[ラブホテル]村様 いつも大変お世話になっております。お問合せの件ですが……」

「誰がラブホテル村様やねん! なめとんのか!」と。

 LoveHotel
しかも、そのメールにはccで関係者が多いから、〇村さんの勤め先でのあだ名が「ラブホテル村」になりはしないかと心配すらしてしまうのだ。 「ラブホテル村」はさすがに長いので、「ラブホ村」になって、最後はなぜか女性職員にまで「ラブちゃん」とか呼ばれるようになる。片岡愛之助か。

ちなみに私の先輩には「なんでも下ネタで喩えるムラタさん(仮名)」というのがいて、電話すると、

「もしもし? もしもしピエロ?」 と出てくる。
  • http://www.piero.co.jp/
  • 関西の人にしかわからんからまぁいいや。ラブホテル村に戻ろう。

    懸念を抱いた僕は、同じ仕事に携わる後輩の河口くん(仮名)にメールを送り、事情を説明の上、尋ねてみたのだ。

    「君のPCでは[ラブホテル]村になってるか?」
    僕は河口くんにこういう模範解答を期待した。
    「ははは、めっちゃおもろいですね、[ラブホテル]村! いえ、僕の方ではちゃんと表示されています。が、いっぺん見たいものです」

    しかし、彼からの返信はこうだった。

    「下記ご連絡頂いた件、 私のメールボックスの受信メールを確認しますと、きちんと表示されています。 以上、ご報告まで」

    マジメか! ふざけんな! いやどっちやねん。 なにが「下記ご連絡いただいた件」じゃ。ラブホテル村の話やないか。こっちの方が字数少ないわ。 なにが「ご報告まで」じゃ。無表情か、お前は。ラブホテル村にいっぺん行ってみたくはないのか。

    人それぞれ社風とか暗黙の了解があって、文体も制限があるのかもしれないけど、僕が勤める会社にはそんなものはなく、個人の裁量・技量である。 技量というのは、僕の仕事はもはや、メールの往復で交渉したり、依頼したり、問題解決する機会も多いので、そこには技量と呼べるような個人差が表れるのである。 未だに「小生」とか書いてくる人もいるしな。あなたの人生が大きいか小さいか、知らんちゅうのに。

    それにしても、Eメールというのはここ二十年で急速に普及したから、実に様々な個人差がある。

    ■堅苦しくて読みにくい人:

    こういう人に限って、改行や一行空けがないから、読みだすのにすでにちょっと気合いがいる。丁寧なフリして、まったく読み手のことに配慮されていない文面である。だから大概、慇懃無礼な物言いになりがちだ。

    ■一行メールの人:

    「あの資料ある?」 などと、宛名もなく、一行で指図してくる、おっさんに多いタイプだ。これが最低。
    「どの資料ですか?」
    「プリントでお渡しすればいいですか?」
    「明日なら送れますけどいいですか?」
    など、結局こちらから問い合わせてメールを何往復もさせなくてはいけないから、余計に時間も労力もかかるのだ。

    なんの挨拶も説明もなく、転送メール送りつけてくるのもこの一派だ。

    ■文法・語法が間違っている人:

    「各位様」
    「〇〇部長様」
    (目上の人に対して)「了解です」
    (わしゃなんにも受け取ったわけではない、ただの連絡メールなのに)「ご査収ください」
    などなど、一見慇懃なつもりで、実際はあまり何も考えていないことがバレちゃうタイプ。

    良いか悪いか知らないが、僕は個人的にあえてやっていることがいくつかある。

    ■(所々に)余計な話や冗談を入れる

    「この前おっしゃってた本読みました/映画観ました/場所に行ってみました。〇〇と感じました」とか
    「では、よい週末を」とか。
    週末も深夜もなく働くことが善いことでも正しいことでもなく、休むことに罪悪感を持つ必要もありませんからね。
    「なんとかなるんちゃいますか」、「そ、そりゃちょいとキツイかも……」など、わざと砕けた口語・方言を用いるのも、これに近い。たまに、こうやって本音を紛れ込ませることで人との距離を縮められることがある。

    僕の上司なんかは、お得意先へのメールで、なにか延々とご説明さしあげた最後に

    「知らんけど」
    と書いていて、かなりの高等技術であった。

    ■しばらく前に受け取ったメールに返信する時は、ちゃんと下に元のメールが付いているものに打つ。

    これ、たまにしない人が多いので困るのだ。以前のリファレンスがないと話が食い違ったり、わざわざ元を探して読み返すハメになってしまう。

    ■箇条書きを多用する。

    時間・場所・条件などの他に、論旨にも箇条書きを積極的に遣う。

    ■してもらったことに対し、まずお礼を言う。

    外国人からのメールなんかよく、「Thank you for...」で始められているのを見るから、それを取り入れてみたまでなんだけど。

    他の仕事は知らないけど、僕の仕事は本当にメールの山を捌くことから始まることが多いので、これが仕事のクオリティの一部のような感慨もある。

    まぁ、一番意識的にやるのは最初に挙げた「余計な話を入れる」ことかな……。

    個人的な考え方なんだけど、僕は仕事もプライベートも態度を変えずに生きるのが正しいと考えている。正確に言うと、「そのように生きられることが望ましい」。日常生活の中で演じなくてはいけない役割や、期待される応対はそりゃ様々あるけど、なるべくその幅を小さくするのが人間的な心を保つ秘訣なのではないか。ちょっとアメリカ人みたいで申し訳ないけど。

    願わくば、エライ人にも、年下の人にも同じような態度で臨みたいと思っている。これを続けると、目上の人からは生意気な鼻持ちならない人間だと誤解もされるけど、取引先の前でだけニコニコしてる人や、相手によって態度を変える人をどうにも信用できないのだ。

    だったら、無愛想な人の方がむしろマシ。常に無愛想だったら、逆に安心するもんな。その人を笑わせることができたりしたら、ちょっといいことした気分にすらなるからな。

    みんな、酒飲んだらアホ話、エロ話、マジ話するでしょう。いや、たとえ飲まなくても。 わかってまっせ。

    仕事場でものすごい有能な感じでプレゼンしてた人を、後日電車で見かけた時に、スマホで必死にゲームしてたら軽くショック受けるでしょ。 そういうことです。みんな人間なんです。フツウにいこうや。

    後輩の河口(仮名)よ、楽しい人生を生きろよ。

    「シンドいのお前のせいやないか」
    と、タメ口で返されそうや。