僕は自慢ではないが友達が少ない。同級生の仲間は東京にいるが、十年以上も住んでいる関西には本当に数えられるくらいだ。何百人もいる会社の中に、神市(仮名)という後輩が一人。あとは仕事関係の友人と一部重なりながら、トレッキング系で幾人か。そして、ゴーゴーコンビというインディーズのバンドが僕の大切な友達である。
この誇り高きクズどもの話を少々させてもらいたい。
出会いは、八年くらい前に遡る。僕は中学、高校時代に好きだったザ・ミンクスというパンクバンドの復活ライブのチケットを持っていた。会場は、大阪の福島という場所にある高架下のライブハウス。僕はそれまでライブに行くような習慣はなく、ただ懐かしさと、せっかく復活ライブを催すという(当時)四十くらいのおっさんたちを応援したくて、ボランティア的な気持ちだったのだと思う。
ロックバンドのライブというものが、なぜあんな狭い箱の中で、あれほどの爆音を鳴らさないといけないのかも理解できなかったし、音楽はCDの方が音もきれいでいいとすら思っていたのだ。
ザ・ミンクスのパフォーマンスは正直、懐古以外の感情は掻き立てなかったように記憶する。「年とったなぁー」「この曲好きだったなぁー」と。
しかし、その前座で登場したバンドはそれまでに経験したこともないような感情を僕の胸に沸き起こした。聴いたこともないようなパワフルな歌声。割れているのにかすれることなく、爆音のギターに負けずに観客を圧倒する声。そして、彼が低めに構えるギター姿のキマっていること。 隣りには、これまた見たことないような激しいハープ(十穴ハーモニカ)の吹き方をする男。ハープってこんな、火のような音が出る楽器だとは知らなかった。 バックには、物静かそうなベースらしいベースと、ちょっと厳ついドラムらしいドラム。
四人編成なのに、ギターボーカルで、ハープだけの担当がいるという変則的なバンド。ちょっとブルージーでありつつ激しいロックをやる。なのに曲間のトークは脱力させるようなアホアホで、その落差がまたおもしろかった。
ここでメンバー紹介! ボーカル、ゴーゴー木村。身長一八五センチはステージ上でよく映える。全ての曲の作曲を担当。音楽以外では、料理にやたらと才能を示す、ヒモにはもってこいの男だ。 ハープはゴーゴームラヤマ。作詞も担当。普段は親の会社を継いで若き社長をして(ヒーヒー言って)いる。おそらく音楽史上初めて、「ライブ中に楽器をなくした男」だ。ハーモニカを吹きながら転げ回っているうちにステージから落ち、楽器がどこかへ飛んでいったのだ。ハーモニカをなくしたハーモニカ吹きは、単なる手ぶらのおっさんだ。 ドラムス、ゴーゴーK。バツイチ子持ちの、気のいい男だ。子供ができた経緯を今でも不可解に思っている(後述)。 ベース、ゴーゴー烈。現在は家庭の事情で参加を休止しているが、ゴーゴー木村は、彼と初めて出会った時のことをこう語る。
おそらく「村で一番のバカ」を見つけた気分だったろう。
そんなゴーゴー烈の代わりにベースを弾いているのが、ゴーゴージェットシン。こちらは「村で一番のバカ」の称号も引き継いでいる。
- ○ メラニン
- × メラミン
- ○コクリコ坂
- ×ココリコ坂
- ○アリソン・フェリックス
- ×アリソン・フェニックス
- などなど、バカ特有の言葉の記憶違いを際限なく繰り返す男だ。
音楽というのは結局「心にくるか、こないか」だ。人それぞれ理解の範疇というものがあるから、そこは仕方ないのだけど、僕には彼らの音楽は即座に「きた」のである。能力のある人が本気で演っているかどうかは、能力のない僕にもなぜかすぐにわかるのだ。
思い返すと今でも不思議なのだが、僕はその日のライブのあと、屋外で休憩していた彼らに話しかけている。この人見知りの人間が実に珍しく。きっとなにかひと言かけざるを得ないほど、受けた衝撃に気分が昂揚していたのだろう。
その後何度か彼らゴーゴーコンビのライブに足を運ぶうちに、友達になった。 僕が結婚した際には、僕がゴーゴー木村宅にて徹夜で作詞した歌に曲をつけてパーティで演奏してもらった。我が家でのクリスマスパーティでは、ゴーゴー木村が全裸で股間に靴下だけ被せてうちの座布団に座っていた。正月三日から友人宅に遊びにいくと、ゴーゴー木村とゴーゴームラヤマが怒鳴り合いのケンカをしたりといった、心暖まる交流を続けている……。
- 「ワキがくさいことをワキガというなら、アソコがくさいのは『オメガ』ちゃうんか」
- だとか、
- 「うちの子はカウパーでできた」
- だとか、まぁ大体いつもそんな会話だ。
昨晩も瓶ビール飲みながらヒドかったなー。以下に男三人の会話を再現。どれが誰のセリフとか全く関係ありません。
- 「瓶ビールの方が缶よりうまいよな?」
- 「わかるわー」
- 「絶対うまい思うわー」
- 「なんか製法がちゃうて聞いたことあるで」
- 「オレ、瓶と缶飲み比べて分かる自信あるわ」
- 「それは無理やわ」
- 「いや、わかるて。オレ、プレミアムモルツとスーパードライとラガーなら飲んで見分けられたで」
- 「うそつけて」
- 「ほんまやって。どこでやったんやったかな」
- 「オレ、ビール十種類くらい利きビールするコンテストに出たことあんねんけど、全然わからんかったわ」
- 「十種類はキツいわ」
- 「そのコンテストどこで出られるねん」
- 「いや、三つくらいならできるて」
- 「だから無理やって」
- 「絶対できるわ。あ、思い出した。ばあさんの葬式でヒマやったから利きビールしとったんや」
- 「なにしてんねん」
- 「ほんまに、瓶と缶は飲み分けられるで」
- 「だから、でけへんて。お前みたいなミソラーメンと博多ラーメンの区別もつかんヤツができるかい!」
- 「できるて」
- 「舌、バカなっとるくせに」
- 「アホか。せやけど瓶ビールの方がうまいよなー」
- 「なんか製法がちゃうって聞いたで」
- 「オレ、瓶と缶飲み比べて分かる自信あるわ」
あとは延々ループですので後略。
そんな彼らがこの度、売れないのは承知で「トータルコンセプトアルバム」を発表する。「トータルコンセプトアルバム」というのは、アルバム全体をひとつの作品として一貫した物語を描いたものだ。
「コンセプトは愛です」とか「旅です」といった曖昧なものではなく、具体的な物語性を持たせた作品である。まぁー、最近の日本の若いミュージシャンはこの手のものに手は出しませんよ。大変な労力の割りに売れないから会社が許さない。ゴーゴーコンビは構想と制作に、実に五年間かかりました。 シングル曲とその他の曲を集めたものがアルバムだと基本的には考えられているし、メジャー会社はすぐにベスト盤を出したがる。
実は昨日は、そのアルバム完成のお祝いとレコ発ライブの打合せで、一緒に飲んでいたのである。酔っぱらう前は、ロックの未来を憂えた殊勝なことも言っていたのだ。
ゴーゴー木村の弁。
- 「今はシングル至上主義の時代だけど、それではいいロックバンドなんて育つわけがない。一曲二曲いい歌があったって、それでバンドのなにがわかるというのか。アルバム全体を通して初めてバンドの『実力』が見えてくる」
- 「ジョン・レノンがソロになった際に、皆ポールのスーパーキャッチーなメロディーが頭に残ってるから、レノンは評価されなかった。でも、歴史に残っているのはレノンのレコードじゃないか」
シングル至上主義というか、時代が即物的になったゆえの、アルバム曲をバラバラにダウンロードできる売り方は、僕もよくないと思う。目先の小銭のために、シーンが痩せていくだけだ。シングルカットされた曲は文字通り「カット」されてるわけだからいいとして、それは「鍋から肉だけを食べるような意地汚い行為」と、僕には思える。それで本当に「名盤」と呼べるアルバムが生まれるのだろうか。そういえば、ここ何年もそういう評価を受けたアルバムを聞いていない気もするぞ。
インディーズの矜持と、ロックの魂が詰まったゴーゴーコンビの新アルバム「獣たちの世界」。誠に勝手ながら、その宣伝をさせていただきました。 なぜなら、僕も制作陣のひとりとしてお手伝いさせてもらったからです。ご興味ある方は買ってください。アマゾンで普通に購入可能です。 タワレコ等の店頭では注文してみてください。十月十四日発売。
失礼しました。
- 【ゴーゴーコンビ オフィシャルサイト】