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月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。2003年より書いていた月イチコラム「月刊ショータ http://monthly-shota.jp 」をhatenaに転載しました。そのため、一部お見苦しい点があることをご容赦ください。

「そんなことでやつらに勝てるんかい!」

column
去年大きな夏休みを取ってアメリカ横断をしてから、一年が経ってしまった。旅の最中には、いつまでも旅を続けたいと思ったし、こんな素晴らしい旅ができて、もう人生はいつ終わってもいいと思ったものだ。しかし、こうして一年何事もなく暮らしている。
それにしても、あれだけ旅をしても(十一日間)有給休暇というのは消化しきれるものではない。毎年半分も使わずに次の年度を迎える。
ここに、有給休暇取得日数の国際比較のデータがある。
  • フランス  34.7日
  • スペイン  28.6日
  • デンマーク 26.9日
  • イタリア  26.5日
  • ノルウェー 25.6日
  • イギリス  25.5日
  • ドイツ   25.5日
  • (中略)
  • アメリカ  14日
  • 日本    9.3日
  • (出典:エクスペディアジャパン)
「フランス人はひと月バケイションを取る」というまことしやかな噂はどうやら事実らしい。ちなみに有給休暇を使い切る労働者の割合は以下の通り。
  • フランス    89%
  • アルゼンチン  80%
  • ハンガリー   78%
  • 英国      77%
  • スペイン    77%
  • サウジアラビア 76%
  • ドイツ     75%
  • ベルギー    74%
  • (中略)
  • カナダ     58%
  • 米国      57%
  • 韓国      53%
  • オーストラリア 47%
  • 南アフリカ   47%
  • 日本      33%
  • (ロイター/イプソス調べ)
調査した中では日本は最下位である。つまり日本人は休暇も取らずに、ステレオタイプに違わぬ勤勉さで今日も働いているのだ。
そして、周知の通り年間のセックスの回数も世界最下位で(四十八回:デュレックス・セクシャル・ウェルビーイン グ・グローバル・サーベイ 二〇〇七より)、一体我々は何をしているのかと思う。
セックスする暇も惜しんで休まず働いて、それでいて経済は下降線、給料は上がらず、学生は就職できず、欧米諸国からは相変わらずナメられている。
まぁ、何をやっているって仕事をしているわけなんだけど、いい加減働き方を変えていかないとこの国は良くならないと心底思う。「良くなる」というのは幸せ指数の向上を指している。
ニッポン人は「不幸せ自慢」「寝てない自慢」「抱いてない自慢」が好きで、「自分は幸せである」ということを公言するだけで、「世の中には恵まれない人もいるのに!」などと、あらぬ批判さえ受けかねない。アホか。お前は朝日新聞か。
ここは、世界的に見ても誇るに足る素晴らしい国なんだぞ。どこでもコンビニがあって、安全で、女性がきれいで(日本人女性の外国での人気は抜群である)、水がきれいで。
僕は、毎日ごはんが三食食べられて、寝る場所があって、仕事があって、少ないながら友人がいるわけで、神様が出てきて「すまんが、お前の人生、これ以上なんもないで」と言われても、まぁ仕方ないかと思えるレベルには幸せである。それは否定できない。
人間の欲望は無限だから、そりゃ望めばキリがない。オープンカーにも乗りたいし、黒人ラッパーのようにプールサイドに美女を侍らせたいし、同時にカウボーイのように自然の中で暮らしたい。いや、現実的にも、もっといい仕事ができるようになりたいし、もっとマッチョになりたいし、将来に不安がなくなるくらいお金を貯めたい。
それでも現状においても「幸せである」と自己申告できる程度にはちゃんと人間的生活を送れているのである。多くの庶民がそのはずなのだ。そのことを堂々と言える国にしたいではないか。
そのためには仕事をしなくてはならないのだが、仕事だけしていてもダメなのだ。矛盾するがそうなのだ。
今でもニッポンのサラリーマンの間には「上司がまだ会社にいるから帰れない」みたいな風潮が残っているようで、信じがたいことだ。いや、僕だってヒトの子ですから、自分だけ会社でヒマで先輩や後輩が忙しそうにしていたら罪悪感は感じますよ。しかし、だからといって意味もなく夜まで会社に居残るかというと、それはしない。さっさと出て、ジムに行くなり買い物でもするなり家でごはんでも炊いて妻の帰りを待つなり、自分の精神衛生や人生を良好に保つためにするべきことはあるのだ。
やる時はやるし、やらない時はやらないのだ。
だって、それってカラ残業じゃん。あなたがそこに残って働くふりをしていることで会社からすれば残業代が発生しているわけだから、出費しているのだ。当然電気代もかかっている。残業代を出さない会社も多くあるらしいことは知っているが、そういう違法組織は論外とする。
日本の経営者はたいていコストの削減に必死で取り組んでいるはずだから、僕が経営側なら無駄な残業に払うお金はないと思うはずだ。
そして、無駄を省くのなら、日本のビジネスマンは意思決定のプロセスをはっきりと決めなくてはいけないと思う。
誰が、いつ、なにを、どういう順序で、なにを基準に、どこまで決定するというやり方をはっきりさせないまま仕事を進めるから、膨大な無駄が日本中で日々繰り返されているはずだ。ひとそれぞれ業種が違うから具体例で話せないのだけど、誰がどこまでの権限があるのかが非常に曖昧で、役員が「事務所のファイルの背表紙に貼るシールの向きを決めている」みたいなしょーもない決定をしている(権限を持っていると勘違いしている)ことが日本中であるはずなのだ。
主任が月曜日に「背表紙に貼るシールはタイトルを縦書きにするのか、横書きでいいのか」でワーワー言い出し、課長が「前例を調べると、アルファベット表記も多いので、一九九八年の例外を除いては横書きだ」という調査結果を水曜午前になってまとめ上げる。
で、横書きにしたらしたで、このシールをファイルの上部から貼るのか下部から貼るのか(その昔VHSで迷いませんでした?)わからなくなり、とりあえず木曜日一杯を使って上部から貼ることにする。なぜなら表紙を上に積み重ねた際に、シールのタイトルが上を向いて読みやすいからだ。
しかし、金曜日に役員に見せたら「シールの向きがおかしい」と言われ、主任が「いえ、積み重ねた時にですね……」と言いかけたところで課長が肘打ちをして制し、「そうですね、早急にやり直します!」と返事する。
で、部署みんなで金曜日の晩は残業である。
これがニッポンのサラリーマンの実態である。こういうことを、年間九日間しか有給休暇を取らずに、セックスは妄想の中だけでガマンし、メシは松屋で済ませ、電車の中で口を開けて寝ているところを向かいに立った学生に「シャリーン!」と写メされながら、続けているのである。
そんなことでおフランスに勝てるんかい!
あいつら全然働いてへんねんぞ! 三十何年生きてきて、メイド・イン・フランスのものなんて、グラスと百円ライターとワイン以外に見たことないんやぞ。
いつになったらヌーディストビーチで興奮することもなく、あたかも「このサングラスをしてれば、逆に服を着ているように見えるザマスの」みたいな落ち着き払った顔でヘミングウェイとか再読できるバケイションを楽しめるようになるんだい!
僕は思うんだけど、「仕事が趣味」と公言する雇われ人ほど、うさんくさくてハタ迷惑な存在はないのだ。そういう人に限って、ダラダラダラダラ仕事して「自分はこれだけ時間をかける情熱がある」と勘違いしている。再び僕が経営者なら、そんなやつに給料払わないよ。趣味でやりたきゃ独立せい。
「どこの世界に釣りに出かける度に出張手当が出るハマちゃんがおんねん」と言うと思う。
僕は仕事もきっちりやるけど、多彩な趣味を持っていて「へー、こんなこともされるんですか」という人が好きだ。
僕にもうちょっと勇気があれば、日本を変えていくために、最短距離で物事を決定して、その分の時間で有給休暇は全て消化して、休暇中は「裸に見える方のメガネ」をかけて世界中を歩き倒すと思うのだが、残念ながらそういうクールな人間は出世しないんだよな。
だから、この先も日本は変わらないようになっている。
厚生労働省、もっとがんばってや。
(了)