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月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。2003年より書いていた月イチコラム「月刊ショータ http://monthly-shota.jp 」をhatenaに転載しました。そのため、一部お見苦しい点があることをご容赦ください。

「ではなんて言えばいいんだろう」

column
先日、東京の四ッ谷を訪れたところ、ロシアからプーチン首相が来日中のため街宣車と警察車両が出てワーワーやっていた。四ッ谷だけでなく東京の中心ではそこここに警官隊が陣を張り、なにやら厳戒態勢であった。
街宣車から大音量でシュプレヒコールが鳴り響く。
  • 「日本固有の領土である北方領土を直ちに奉還せよー!」
  • 「奉還せよー!」
  • 独裁国家ロシアのプーチンは帰れー!」
  • 「帰れー!」
うむ、正しいことを言っている。
しかし、誰も聞いていない。聞いていないどころか、交差点を行く人々は完全に無視、もしくは迷惑そうな表情を浮かべて道を急いでいる。せっかく正しいことを主張していても、言い方がマズいと聞いてもらえないという典型である。
挙げ句の果てに、なぜか最後は
プーチンコールと相成った。
おいおい、なんかそれは意味が違ってきてる気がするぞ。
まぁ、街宣車の場合は説得とか共感の獲得が狙いではなく、扇動、というか、ほとんど示威がその目的であるのだが、何かを糾したい場合に、人として大人として、どういう言い方をすればいいのか、僕は最近気になるのである。
前回、僕は電車内の迷惑行為について書いたが、メールをくれた先輩がこのように言っていた。
ヘッドフォンがシャカシャカうるさいヤツには肩をトントンしてから、「うるさいよ」と言ってしまう。横入りするオトナには体当たりを喰らわせた後メンチ切りに行く、と。
「うるさいよ」は(「うるせんだよ」ではない)正解だと思うのだが、先輩ほどの眼光と低音ヴォイスがない人には、これすらなかなか勇気がいる。
これが声が高かったりしたら何の効き目もない。
声が高くて、さらに身長が一五五センチ未満の方にもオススメできない。
声が高くて、身長が一五五センチ未満で、ヒゲがやたらと薄い、
もしくは濃過ぎて青々としている向きにもオススメはできない。
声が高くて、チビで、ヒゲ青々で、その上、やや舌足らずな喋り方をする人にも……、もういいか。
それ以外の人にだって、新聞でしばしば目にする注意してプスッとやられたみたいな記事がちょっと頭をよぎるだろう。
こちらは腹が立っているから、いきおい不快感をそのままぶつけた言葉が飛び出してきそうだが、これが果たして最も効果的なのかどうか。僕は疑わしいと思うのだ。
たとえば「てめーうるせえんだよ!」なんて言っちゃた場合、これはその行為をやめてほしいのではなく、ケンカを売っていると受け取られても仕方ない。相手への抑止や忠告ではなく、自分のための鬱憤解消行為だと考えていい。
これはやはり成熟した社会構成員のとるべき行動ではない。
まぁ今僕は冷静にパソコンに向かっているから言えることなのだが、何かをやめてほしいならそれなりの言い方を考えなくてはいけない。
しかし、「申し訳ないですが、やめていただけないでしょうか」などと市役所職員のようにお願い申し上げるのもなんだか癪じゃないか。
うちの近所では夏になると、こんもりとした植込みの植物に発泡酒の缶が置かれていることがある。誰だかわからないが、明らかに駅からの帰路を発泡酒飲みながら歩いて、毎回ちょうどそのあたりで飲み終えて捨てるのだろう。腹立たしい。誰だか知らんがやめさせたい。僕は今度見つけたら、デジカメで証拠写真を押さえて、チラシを作って電柱に貼りたいと思っている。
上記を踏まえて、その際のコピーはどのようにするべきなのだろう。大阪的には「ポイ捨て、あ缶」とか書いてしまうのだが、そこで駄洒落を言うことが抑止効果を高めるとも思えない。
「お供えおおきに。願い事言うてみい」
とでも書こうか。僕は今でも一番いいコピーを考えている途中だ。
僕が以前に仕事で奈良の天理高校を訪れた際、トイレでなかなか洒落た注意書きを目にした。女性にはわかりにくいでしょうけど、男性は小便器の前にオシッコをこぼすことがある。その原因は便器に対して遠くに立ちすぎているからだ。だから、たまに公衆便所では「一歩前に立ちましょう」とかの注意書きが見受けられる。
天理高校では、
「One step forward. Yours is not longer than you think」
とあった。つまり、
「一歩前へ。あなたのは、あなたが思うほど長くないのです」ということだ。私立とはいえ、ユーモアのわかる高校である。
僕は感心した。それで人が一歩前に立つかどうかは別として。いや、おそらく立つだろう。
うちの実家に韓国人の学生がホームステイにやってくるという。彼はアメリカに留学しているから、日本語を学びつつも基本のコミュニケーションは英語になる。
僕のおかんはオシッコは男性も座ってしてほしいのだが、それをわざわざルールとして申し付けるのも気が引ける。そこで、僕に英語で貼り紙を書いてくれと言ってきた。ただし、「オシッコは座ってしてください」という公衆便所みたいな味気のない貼り紙はしたくないという。せっかく彼女なりに雰囲気も考えて装飾したりもしているのに、押し付けがましい注意書きがまず目については台無しというわけだ。
そこで僕が書いたのは、
「Ready. Sit. Pee.」。
もちろん原型は「Ready. Set. Go(位置について、ヨーイ、ドン!)」だ。韓国の彼も笑って従ってくれたらしい。よかった、よかった。
あー、わからない人は辞書引いてください。説明するのは野暮なので。
力抜けるような言い方がいいと思うのだ。
どれだけの人がウィットを解するかわからないが、「ポイ捨て厳禁!」とか「空き缶はくずかごに!」などと、当ったり前のことを今さら大声で言うよりもマシかとは思う。
とはいえ、もっと深刻な問題になるとウィットもヘッタクレもなくなって、人間同士がぶつかり合うことになる。
僕は、大阪で以前に話題になった野外カラオケに歌いに行ったことがある。行ってみると、その日は大阪市役所がカラオケ運営側と路上生活者とその支援者たちと衝突する日だった。行政代執行というやつだ。立ち退きをしない人たちに「代わって」物を撤去し、その費用は立ち退き側に請求するという鬼の手段。
法を盾に正論を掲げる者たちと、生活を懸けてそこを防衛する者たちとの炎の上りそうな睨み合い。
偶然にも、体制vs.抵抗側の対決を目の当たりにして、僕はいささか緊張しながらも事の成り行きを見守った。
路上生活者たちはバリケードを築いて気勢をあげる。双方を合わせて五十人はいるだろうか。バリケード越しに怒声が飛び交う。
  • 「速やかに退去してください!」
  • 「不法占拠に対しては行政代執行を行います!」
  • と言葉は丁寧だが、言い方は怒気を含んでいる行政側に対し、
  • 憲法違反だー!」
  • 「生きる権利を認めろー!」
  • 「暴力による強制退去を許すなー!」
  • 大阪市は卑怯なことをするなー!」
  • と敵対心を露にする路上生活者たち。
まさに一触即発。顔と顔を突き合わせての怒鳴り合いは激しさを増し、騒ぎは頂点に達した。
どうする路上生活者たち!
とうとう殴り合いが始まるのかと思いきや……、彼らは
「ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ!」
となぜか、おかしなテンションで盛り上がっていった。
なんか使い方違う気がするぞー。傍観していた僕同様、行政サイドも力抜けたのではないだろうか。
(了)