月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「男はいくつになっても、う○ことキン○マの話が大好きなのだ」

僕は数年前より、原因不明の下腹部の痛みに悩まされている。
具体的に言えば、左のタマが痛くて非常に不安だった。
「将来きっと必要になるタネに影響したらどうしよう」、「まさか変な病気では? 心当たりは……ない」と。
いつも痛いわけではないのだが、お腹が痛い時のように、間欠的にズキズキーッと鈍痛がやってくる。
長いこと逡巡したままでいたが、僕は意を決して泌尿器科を訪れた。少々の恥ずかしさと理由なき片身の狭さに堪えながら、待合所で待つことしばらく、診察室へ通されると医者は三〇才とちょっとの男性だった。
症状を伝えると、ベッドの上に下半身裸で立たされ、タマをチョイチョイ、ピタピタ、グリグリと触診された。僕は初めての経験に、どういう言葉を選択していいのか迷ったが、一応相手は医師だし、この言葉を選んだ。
「先生、左の『睾丸』なんですけどね……」
すると医師は、僕の気遣いにはお構いなく、
「キ○タマはね、痛む時はたいてい腫れるんですよ」
と言った。キン○マは医療用語として流通しているのか、僕をリラックスさせるつもりでわざわざこの慣れ親しんだ単語を聞かせてくれたのか。
結局、「原因はよくわからん」ということで帰された。ただし、脱腸の可能性はある、その場合は内科になる、ということだけ補足された。僕は、「おいおい、大丈夫かよ」と余計に疑心暗鬼になってそのまま会社に行ったものだ。
「とにかく腫れはない」と言われたって、単に「小さい」という不名誉な診断にしか聞こえない。大きなお世話じゃ。
しかし、よくよく胸(とタマに)に手を当てて自問してみると、なるほど、タマからの「わしちゃう、わしちゃう」という訴えが聞こえてくるようだ。どうやら、痛むのはタマ自体ではなく、タマの付け根のいわゆる鼠頚部らしい。
そのまま数年間、僕は痛みのことは忘れて生活していたが、ここ数日再び痛むので、今度は内科に言ってみた。今度は下半身を出してベッドに横にならされ、脚の付け根(まぁ、タマも含め)を押されたり、グーッと力まされたりした。脱腸の人はそうすると、内側に穴の開いた腹部がブニュッ膨らむらしい。
僕にはその症状は出ることはなく、再び「よくわからん」と言われた。「外科かもなぁ」らしい。とにかく、二二〇円だけ払わされて僕は帰った。
でも、確かに今でも時たま痛いし、結局なんなの? という気持ち悪さだけ残っている。これで僕が死んだりしたら、どうなるのだろう。
「死因:玉痛」では親も泣けまい。
新しい広告代理店のようだ。
グローバル・コミュニケーション タマツー
生理痛というのはこの痛みに似ているのかわからないが、誰かが、「下痢の時にお腹を蹴られるような痛さ」と喩えていた。だとすれば、僕にはとても耐えられるものではない。タマが痛い時に蹴られたりしたら……。
いや、痛いときでなくてもタマを蹴られたらたまらない。
いや、タマ蹴るなよ。お腹だって言ってるだろ。
でも、「痛い時はうずくまっちゃうもん」とも言っていたので、それなら、僕の玉痛にかなり近似していると断言できる。
だって、僕もうずくまっちゃうもん。
女性の生理のツラさというのは、我々男性には決して理解し得ないから、あたかも免罪符のように行使されることがある。学生時代のプールの授業しかり、「あの日なの」と言われて手も足も出せない無条件降伏の夜しかり。堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍んでする不貞寝。
もしも、このままタマツーが継続して、原因不明のままなら、せめて僕は、周りの人にちょっと優しくしてもらおうか。気だるさを装い、不機嫌を演出してみようか。意味もなくポーチを持ってトイレに行こうか。なぜか濃色系の服を着ていこうか。そして、「あ、ショーちゃん、あの日だから……」とそっとしておいてもらおう。
あんまり言うと怒られるのでやめておこう。
女性の特権(?)の一つに出産もある。結局男は出産はできないので、女性から「どうせお前らはピュッピュしてしまいやないか」くらいに思われているのだ。先日、テレビでイクラの養殖を放送していた。鮭のメスのお腹から卵を出して、オスを鷲掴みにして持ってきて、ピューッとかけさせていた。
なんだか、哀しいやら羨ましいやらな光景だった……。
ここで、女性にご理解いただきたいのは、ピュッピュも結構しんどいという事実だ。男はそれに取り憑かれているわけだから、来る日も来る日も、あくる日もそのあくる日も、しなくてはいけないのだ(個人差があります)。
中島らも氏が書いていたが、アル中の友人がとうとう全く性欲がなくなった際に「解脱したような開放感」があったと言っていたという。実際はもちろん解脱などではなく衰退なのだが、その清々しさは、男性なら想像に難くないだろう。タバコをやめられた時にような、「自分、やるぅ!」と快哉を叫びたくなる気分だろう。
十代の頃より患っている椎間板ヘルニアも時々痛むし、タマも原因不明の痛みを発するし、三〇を迎えたばかりの我が身はあちこちに不具合が生じているのだが、そんな折、人間ドックの機会がやってきた。
人間ドックは、事前に回答用紙を渡され、過去の疾患や生活習慣を記入してから臨むのだが、それに検便キットも添付されている。
二回分のう○ちを採取して提出しなくてはならない。それは、私も小西真奈美も平等に行われる、ということだ。
スポイトのような形をした器具で、中には液が半分ほど満たされている。真ん中をクルクルすると歯間ブラシのような短い毛のついた棒が引き抜ける。初めての経験に、ドキドキながら説明書を熟読すると、そいつでう○ちの表面を軽くこすって採便するものらしい。
採った後は、また筒に戻してクルクルとネジ締めて「冷所」に保存し、ドック当日を待つ。
僕は涼しい十一月でよかったが、これが真夏だったりしたら、冷蔵庫にでも入れておくのだろうか?
説明書には「とる量 少ない量で充分です」をわざわざ囲みで書いてある。きっと、よかれと思い筒一杯に採取してくるサービス精神旺盛な方もいるのだろう。
「採便容器内の液を…(中略)飲んだり、点眼したり、点鼻しないで下さい」
何に効くと思ってそんなことする人がいるのだろう。
尽きることなき人間の好奇心に拍手!
「採便容器を肛門に刺さないで下さい」
スピード社会に対応した合理的手法にさらに大きな拍手!
しかし、説明書は一番大切な「どうやって水洗便器に落ちてゆくう○ちを軽くこすれる状態にもっていくのか」という問題については全くアドバイスをくれない、不完全極まりないものだった。
僕がどういう方法で目的を遂行したのかは、さすがに恥ずかしくてここには書かない。それにしても、間近で見る自分のう○ちは、「普段は水の中にいる怪獣が、陸に上がってきたような」恐ろしさがあった……。
(了)