月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「初めての欧州は隅っこから」

カメラと三脚を持って一路ポルトガルへ。一週間ばかり一人旅を敢行してきた。いろいろおもしろいものを見てきたので、報告がてら今号ではポルトガル紀行を記すことにする。
KLM航空でおよそ十一時間かけて、まずはオランダのアムステルダム空港へ。そこでは、いつか「なるほど・ザ・ワールド」で見た、蝿の絵が描いてある小便器を実際に使ってみた。女性には関係のない話だが、男の中にはおしっこの狙いを外すヤツが結構いるようなのだ。
僕は狙った獲物は逃さない方だから問題ないのだが、その蝿は確実に的(便器)におしっこをさせる工夫なのだ。
便器の中に、わざと中央からズレた位置に蝿の絵が描いてある。
そういうものがあると、男性はなぜかそれめがけておしっこをひっかけずにいられないものなのだ。そういう心理を突いた工夫で、僕も製作者側の意図通りに、蝿の絵のインクを落とさんばかりにしてやったのだ。
そういえば子供の頃、あれはまだウォシュレットが今ほど一般的ではなかった時代、うちの兄はおばあちゃんちのウォシュレットと「おしっこ対決」をして、散々前を濡らして出てきた。対決方法はご想像にお任せする。
アムステルダムからさらに三時間飛ぶと、ポルトガルリスボン空港に到着である。ご存知ない方のために念のため言っておくと、ポルトガルというのはヨーロッパの、つまりユーラシア大陸の一番西の端に位置する小国である。地図上ではスペインの左隣におまけのようにひっそりとくっ付いている国だ。……と言っては、ポルトガル人に叱られるだろうな。えー、日本の本州でいう山口県みたいなもんだ。と言ったら山口県人に抗議されるだろうな。
僕はまず首都リスボンを歩いて廻った。深夜に到着した日のホテルは日本から予約していったのだが、着いて寝るだけなのになぜかスイートルームが用意されてて悔しい思いをした。翌日からはそこの半額の一泊四〇ユーロ(およそ五千円)の部屋にして節約した。
本当にきっちり半分くらいのグレードで「そりゃせやな」と納得。
チェックイン時間前に入ったら、まだ前の客の掃除が済んでなくてコンドームの空き箱がいっぱいあった。
「何回しとんねん!」と毒づいてみたが、実はあんまりこういうのは気にならない。気にしてたらホテルになど泊まれない。たとえリッツカールトンホテルだって、前の晩は「あーん、あーん」なのだ。
とにかく僕は早速カメラと三脚を担いで出かけた。
旅の目的は二つあって、その内一つは「写真を撮ること」。合計百枚以上撮ってきた。買ったばかりで使い方もよくわからない立派なカメラで。
リスボンは、坂が多くて迷路のように入り組んだ路地が特徴。
地下鉄、バスの他に、ケーブルカーや路面電車が走っている。
建物は概して古く、造っているのだか壊しているのだかよくわからない工事があちこちで行われていて、街自体も乾燥して埃っぽい。黄色く汚れた自動車がいっぱい走っていた。眺めの良い場所から望むと、レンガ色の屋根瓦が丘陵に沿って並んでいて、なかなか心落ち着く景色である。
毎晩疲れ果ててグッスリ眠っちまうくらいよく歩いて、城跡やら修道院やら博物館を巡った。カトリックの国なので宗教的な建造物は名所としてあちこちにある。日本にキリスト教を伝播させたフランシスコ・ザビエルポルトガル人だった。
栄華を極めたのは十五から十六世紀の大航海時代と呼ばれる頃で、ヴァスコ・ダ・ガマやマゼランが代表である。
その頃は、見果てぬ海の向こうへドワ〜ッと出動して、植民地をオラ〜ッと作って、財宝をワッサ〜ッとかっさらっていく、まぁ立場を変えて見たらそりゃあ野蛮な時代だったのだろう。そういう資金で建築したのがキリスト教の大聖堂であったりするから笑止である。
よく見るとポルトガル人ってのは、うーむ、いかにも悪そうな面構えしてやがる、なんて思えてくる。
サッカー選手のフィーゴや、ルイ・コスタみたいな濃いぃ連中が槍持って攻めてきたら、怖いだろ?
それからポルトガル人のいい加減なことといったら……。
ケーブルカーは丘の上と下で一台ずつ待機してて、十分に一回くらい運転されて位置を入れ替わる。みんなカードを持っていて、それを機械にピッとあてがって乗っていく。僕はそんなもん持ってないから運転手のデブのおっさんに「二十ユーロからお釣りあります?」とダメもとで訊いてみた。
おっさんは「ん? ねえよ」みたいな顔してから、「まぁいいから乗れ」と首で示す。タダで乗っけてもらった。
発車を待つ間、車内を見回すと「Nao Fumer(禁煙の意味)」と表示されている。しかし、デブの運転手は運転席でタバコ吸いながら、灰を車内の床にポイポイしている。「さて行くか」と、後ろも確認せずに発車させて、今から乗ろうとしていた客を置き去りにしてゆく……。
「日本だったら、絶対クビだな」と僕は唖然とした思いで揺られていた。
(つづく)