月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「涙はこらえきれないかもしれないが」

出張の機会がある度に思うのだが、どうして長距離移動ってのはこう腹が立つことが多いのだろう。
新幹線の切符を自動券売機で買おうとすると、なんであんなに複雑なんだろう。きっとみんなそう思ってるから、どんなに緑の窓口に長蛇の列があっても、機械の前は空いている。窓口の係員は客がどんなに並んでいようと急ぐ様子もなく、なぜか不機嫌そうに応対しやがる。
つまり、機械の前に立ってもイライラするし、列に並んでもイライラする。
客のおっさんはおっさんで、自分の番は来たからってダラダラしやがって、「窓側だろうが、通路側だろうが、どっちでもいいじゃねえか! 子供かお前は」とケツを蹴り上げてやりたくなる。
やっと切符を手に入れてプラットフォームに立つと、今度は過剰な放送にイライラ。「新幹線が入ってくるっつってんだよ! 下がれコラ〜」と言い出さんばかりの駅員の叫び声。
「隣が空いてますように。空いてますように」と祈りながら、座席に向かうと、さっきのおっさんが隣だったりする……。たいてい、すぐさま靴下を脱ぎ、ビールと餃子弁当かなんか開けだして、初めは週刊現代を読んでいるが、そのうち「ウゲッ」っとゲップをする。
そもそも、隣がおっさん以外であったためしは、ほとんどない。
絶対、JRの陰謀だと思う。僕の顔をチラッと見て、「はい、隣はおっさん」と「おっさん指定ボタン」を入力しているのだ。たまには、一人旅をしている美少女や、欲求不満気味の未亡人が隣であってもいいのに、現実にはありえない。不思議なほど。
もしかしたら、ボタンひとつで座席はランダムに選択されるようになっていて、要するに福引のガラポンみたいなもんかもしれない。
おっさんは白玉ってわけだ。一番多く入っている。係員がボタンをポンで、僕には見えない画面では「ピピピピー」とルーレットが回っていて、「ハイ残念、おっさんでーす」という感じなのだろうか。
それならそれで、次は自分でボタンをポンさせてほしい。自分でやってダメだったら、これも運命と全てを受け入れ、運も実力の内と知り、小癪なプライドを飲み込んで、納得の上でおっさんの隣に座ろうじゃないか。涙はこらえきれないかもしれないが。
せめて運賃を割引してくれ。「おっさん隣席割引」。
飛行機は飛行機で、なにが「エコノミー症候群」じゃ。殺人座席じゃないか。「座ってると死ぬかもしれない」ような座席をよくも設置してくれるわい! 高い金をとっておいて、お客を人とも思わない扱い。
オレは好かねえ。
ほぼ牛舎の中の家畜気分だ。文字通り死ぬほど、身動きのとれない場所に押し込まれ、エサだけは頻繁にふんだんに与えられ、輸送されていく。惨めだ。金を払って、惨めだ。
これがビジネスクラスになると、アテンダントの態度は一変するのを、ワタシは知っている。会社の金で一度乗ったが、まずスチュワーデスが出発直後に一人ひとりに、跪いて、目を直視して、ご挨拶に参る。
「本日は○○航空をご利用いただきまして、ありがとうございます。ワタクシ、本日のフライトをご一緒させていただきます、冴木と申します。Dカップでございます」ってなもんだ。
一度、出発が遅れた際に機内放送でこんなのがあった。
「(棒読みの事務的極まりない口調で)本日は…(中略)ありがとうございます。えー、ただいま、当機はエンジンメンテナンスのために、えー、出発が遅れております。皆様の、えー、旅の足に遅れがでましたことを、えー、心からお祈り、あ、お詫び申し上げます」
空疎な、ありがたいお言葉……。
アメリカのとある空港で搭乗する際に、とんでもない美女が並んでいた。荷物を持ち上げる時に、Tバックを履いてるのが丸見えだった。
僕はジーザスの存在を信じた。
そして、座席につくと、彼女の席にはダブルブッキングで他の人がいたため、オロオロと困った様子だった。Tバック履いていても、こういうことはあるのだ。
困った彼女は手近で空いていた僕の隣に座った。「ごめんなさいね」というふうに僕に会釈した。僕はジーザスに感謝した。
と、そのとたんスチュワーデスが飛んできて、「お客様、申し訳ありません。あちらの席が空いていますが……」と、遥か彼方の方向に、彼女を連れ去っていった。まるで「ここは、こいつの隣は、あかーん!」とでも言うように。あちらの席は知ったことじゃないが、僕の隣だって同じくらい丸空きなのに。
あの時だきゃあ、本当に「主よ、こいつを殺してください。もしくは、ダンゴ虫の姿に変えてやってください」と思った。
(了)