月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「結構がんばっちゃったりもするのだ」

『パーゴルフ』という名前のゴルフ雑誌がある。僕はゴルフをしないからよくわからないが、パーというのはすごいことなんだろうか。
どうせなら夢は大きく「イーグルゴルフ」とか「アルバトロス」なんて雑誌名の方がカッコいいと思うのだが。
「パーゴルフ」。
謙虚だ。可もなく不可もなく。
パーでいいのだ。バーディや、イーグルなんていらないのだ。
やはりソクラテスの言う通り、平凡こそ黄金、なのだろうか。
かと言って、以下のようなタイトルの本が売れるとは思えない。
  • 『横ばいの経営術 〜例年通りでええんちゃう?〜』
  • 『七年前に出た英単語』
  • 『十キロ確実ダイエット法 〜見た目にはわかりません〜』
  • 『名探偵ショータ 〜犯人はわかりません〜』
  • 『犯罪大国アメリカ 〜そうでもないみたいです〜』
しかし、「横ばいの経営術」というのは悪い考え方ではないと、僕は思う。横ばいで何が悪いのだろう。僕が経営者なら「弊社は○○円の売り上げさえあれば、私も含め社員もその家族も不自由なく生活できます。ですので、来期も今期同様を目指します」という姿勢を貫く。それ以上は強欲であって、キリスト教的に言えば罪だ。
ところが、資本主義に生きる我々を取り巻く世界は強欲と搾取に塗れていて、企業の金に対する欲望は尽きることがなく、労働者を搾取するアイディアは底無しだ。
不景気だ不況だと言われて十数年が経つ中でも、売り上げを伸ばしている企業ってのはちゃんといる。ついこの前まで「A社が今期売上見込みを下方修正」とか「B社が倒産」とかいうニュースばかりだったが、最近になって、「A社が経常利益○円突破」とか、「B社が今期売上○%増」とかいう記事が日経新聞にチラホラ目に付くようになってきた。
それを見て僕は「ほ〜ええこった、ええこった」と自分には関係ないのに、立派になった我が子を眺める親のように目を細めている。
しかし、ふと立ち止まって考えると、「だからなんやねん?」と思うのだ。
「○円増益したことにより、社員の給与を○%上乗せすることができるようになり、待遇に対する満足度が○割向上した」という部分まで知って初めて「あっぱれ!」であって、儲けたのはいいことだが、だからどうした。
上層部の私腹が今まで以上に肥えたところで、そんなもんいいニュースでもなんでもない。企業がコスト削減に成功した背景には、ムリな条件を泣く泣く呑まされた町工場のおじさんがいるのじゃないか。
そういう強者がより強くなっていく企業社会に、盲目的に拍手を送っているような人間は、すでに強者の一人なのか、アホなのかだ。
そんなもん「喝っ!」じゃ。
まぁ、部屋で一人で「喝!」って言うだけだけどね。
僕の素人考えでものを言うが、どう考えたってある企業が永久に成長し続けるなんてことがありえるわけがないと思うのだ。
では、市場が成熟してしまって売上が停滞したらどうするかって言うと、他の市場、つまり今まで買ってくれてなかった人たちとか、地域とか国とかに売りつけるべく汗水流すことになる。
首都圏にいき渡ったら地方、日本から他のアジア圏、そして欧州、アメリカ、中南米、アフリカ……。
えーと、いつまでやればいいのでしょうか……?
最近、ボク、くたびれちゃったんだけどな。
日本は目指すべきところを間違ったのではないだろうか? アメリカみたいになれるんだろうか? その前に、アメリカみたいになるといいことあるんだろうか?
世界のどこかには、これといって有名な産業があるわけではないのに、人々がそこそこいいもの着て、いいもの食べて暮らしている国がある。
……と、思う。行ったことないから断言できないが。
国連の常任理事国でもなく、そんなもんになりたいとも考えず、世界一も目指さず、必要以上にものを作ろうともせず、必要よりもちょっと多くのエッチをして……。あわよくば、いつもよりちょっと長いエッチをして、人よりもエッチなエッチをして、さらに上を目指したエッチをして、寝る間を惜しんでエッチをして、土日も休まずエッチをする。
無駄なODAもなく、腹上死はあっても過労死はなく、できちゃったとしても少子化問題はない。
その代わり、電車の中では疲れて寝ちゃって、飲み屋ではパートナーのグチを言い合い、たまの「休み」は疲れてゴロゴロ。「たまにはどこかに連れっててよー」とせがむ奥さんを「エッチだから仕方ないだろ」と一蹴して、ベッドルームに連れ込む。それはそれで結構がんばっちゃったりもする。
うーん、悪くない。決して悪くない。
しかし、一抹残るこの哀しさは、一体なんだろう……。
(了)