月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「アホほど人生は楽しげなのだ」

「アタシ、TOEFLの点数上げるために学校行ってるんだー」
ふーん、で、上げてどうすんの?
「留学したーい」
へぇー、で、留学してどうすんの?
「英語しゃべれるようになりたいの」
ほぉー、で?
「なんかいいじゃん、しゃべれたら」
……。
そんな理由かい! 遊びに行きたいって言え! そんなもんは遊びなのだ、遊び。てめえが楽しみたいだけのために、外国の学府を利用すんな。親の金を使わせるな。
僕が親だったらそんな教育の蓑を被った遊びに大金は出さん。
騙されんぞ、お前らにはー。
騙されんけど、お前ら羨ましいぞー、しかしー。
羨ましいぞー、その行き当たりばったりさ加減。将来的展望のなさ。
労働へのプレッシャーのなさ。なにより、その依存心の強さ。
僕もそんな強い人間になりたい…。なにを隠そう、僕が公言して憚らないのが「次に生まれるのなら女性になりたい」ということ。理由はいくつもある。
まず、労働に対して「するかしないか」の選択が許されている点。
就職して労働に従事してもよし、早々に結婚して専業主婦になるもよし、家事手伝いだなんて実体のない肩書きもOKってこと。
男女雇用機会均等法ってのがあり、女性の社会進出だなんだってフェミニズミックな薫りのする議論があるけど、男性にはまず、「働くべきか、働かざるべきか」という選択肢が社会的に許されていない。
だからこそ、フリーターやプータローが哂われ、忌避され、アウトローな印象を払拭できない。
次に、すっごく気持ちよさそうな点。たぶん、気持ちいいのだろう。
誠に恐縮ながら、僕は「あぁ〜ん、死んじゃうぅぅぅー」とか言わない。言ったことない。
「言わしたる」という勇者はご連絡ください。年齢、性別、経験不問。
とにかく、こちらが望んだこと(になっている)なのに、あちらの方が得しているような気がする。どうも腑に落ちない。喩えるなら、「ゴハン行こう! 寿司行こう! 奢ったる、奢ったるぅ〜!」と強力に誘って、やっと渋々付いて来た相手が、バシバシ中トロとかイクラとか頼んで、「最っ高にいいわー。死ぬほどうまい」とか言うとる図である。
こちらは普通にタマゴから始め、品書きの料金を見つつ、ちんまりと箸を口に運ぶ。
「あーおいしかったー。もう動けないぃぃ」とか言うとる傍らで、こちらは勘定済ませて店を出たりする。
そういうことなのだ。
胸に手を当てて思い出してごらんなさい。昨晩、そんな感じではありませんでしたか? 一人で二回も三回もイッたりしませんでしたか? 三対一で勝ったりしたでしょう。
その他、いろいろ買ってもらったり、奢ってもらったりする点も羨ましい。僕も、服とか靴とかメシとか払ってもらいたい。車で送り迎えしてもらいたい。
泣いたらなんでも許してもらいたい。この前、会社で上司に怒られた時も泣くべきだった……。
不機嫌な時は「どうしたの? どうしたの?」って心配されたい。
月にいっぺん体調不良な時はそっとしておいてもらいたい。
多い日も安心でいたい。男には、多い日でもうしろ漏れの心配はないが、早漏れの心配がある。
髪を切ったら「かわいいね」って言われたい。
街角で見知らぬ男にまで「おねえさん、かわいいねー」って言われてみたい。
あらゆるダイエットを試したい。シュークリーム・ダイエットとか。
自分のことを「ショータ」って名前で呼びたい。「その見積書はショータが今日中にご用意いたします」とか。
ノンスリーブなのにタートルネックという暑いんだか寒いんだかわけのわからん服も着てみたい。
「ショータ専用車両」がほしい。
断然、女性だ。女性になりたい。できるなら、中でも「アホで美しい女性」になりたい。アホならアホであればあるほど望ましい。
男女限らず、「アホほど人生は楽しげ」なのだ。
もしも明日の朝目が覚めて、女性になっているのなら、……会社休んで一日おっぱい眺めて過ごそうと思う。
二週間は飽きないと思う。
(了)