月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「才能という如何ともしがたい隔たり」

僕もこんなに働けたんだなぁ、と自分で感心するくらい働いて、やっとここのところ仕事がややスローダウン。ひと月も行けてなかったジムに向かう。僕としたことが、八月に一回、そして九月にもう一回しかジムに行けてない情けなさ。
僕は会社が法人契約しているジムを使っているので、あちこちのジムを利用できることになっている。具体的には、会社の近くにひとつ、下車駅のそばにひとつ、そして、家の近所にひとつ。別に、ハシゴするわけではないが……。
やや久し振りなので少々気合を入れて行ってみた。
すると、そこは「定期休業日」。
せっかくのやる気を削がれて、「帰ろっかな……」という気になってくる。ここんところ疲れてるし、面倒くせえな、と思えてくる。
いや、だけど次はいつ行けるかわからないから、今日行っておこう、とも思う。まさに、天使のショータと悪魔のショータが、僕の頭の周りをピヨピヨ飛んでる状態で、ひとまずそいつらを従えながらも、足は次のジムの方向へ。
ジムへのエレベーターに歩を進めながら、「閉まってろ! 閉まっててくれ!」と念じる。なんで、こんな思いまでしながら、通わなけりゃいけないのだ。だったらやめとけばいいじゃないか。
結局、ジムは営業していて、僕は行きたくもないジムに入店し、払いたくもない利用料を払い、挙げたくもない鉄の塊を挙げて、噛みたくもない苦〜いアミノ酸を噛んで嚥下する。そして、ヘトヘトにくたびれて家路につく。
その結果として、欲しくもないのにお金がもらえるとか、モテたくもないのにモテてモテてしょーがないとか、そんな見返りがあるのならいいが、そういった類の特典は、ない。
他の人々がフライデイ・ナイトを楽しんでいる時に重り握って唸っているようではモテるわけがない。わしゃ、一体なにをやっているのだ……。
こんな研究結果がある。
「天才科学者も犯罪者も双方とも、異性の関心を引くために三十代で最高の“仕事”をする」
ニュージーランドカンタベリー大学のカナザワ氏が発表したもので、女性の関心を引こうとする男性間の競争心が、科学的発見や犯罪行為へ人々を駆り立てる、そうな。 そして、年を取るとともに競争心が減退し、関心の対象が女性から子育てへと移り、結婚もそうした行動を鈍らせる、としている。
……そうなのだろうか? それは本当なのだろうか、カナザワくん?
科学者ってモテためにがんばっているのか? ノーベル賞もらった田中さんとか見る限り、どうもそうは思えない。
知識量とか、教養ってのはモテ度にはあんまり貢献しないような気がする。世の「いい男」とされている人たち、今ならキムタクやベッカムだが(当時)、どうも頭の方はその容姿ほどは完成度高くないように思えて仕方ない。
一方、頭が良さそうな人たち、好き嫌いは別としてそんな感じの人たちを挙げていくと、荒俣宏立花隆山田五郎呉智英ビル・ゲイツなどなど。
およそ抱かれてみたい男たちを集めたようには見えない。まず第一の問題は、五人の視力を足し合わせたとしても、正数にならなそうなことではなかろうか。
しかしながら、上記の五人が合コンしているところは、ちょっと見てみたい気はする。朝まで生合コン。
まぁ、こんなもん大学の予算を使って研究するまでもなく、ショータ教授は言うぞ。
「教養と異性からの関心は全く比例しない」
勉強や研究に没頭すればするほど、人付き合いや合コンやデートを犠牲にしなくてはいけないし、それを「犠牲」と考えてしまうような人にはそういう孤独な作業は不向きである。
仕事だってそうである。し過ぎてみて初めてわかったが、別に一生懸命やってみたところで、モテるかどうかには全く関係ない。単に、合コンとかデートしてるヒマがなくなったに過ぎない。
結局のところ、オツムがよろしいとか、おもしろいとか、スポーツができるとか、仕事ができる、とかは付加的なもので、まず「見た目がよろしい」という前提があってこそ成り立つのである。
高校生の頃、見た目がよろしいだけでおもしろくもない男たちと、おもしろいだけで見た目は大したことない僕には歴然とした格差があった。それでも、「まぁ、女性(つまり女子高生)だって大人になればわかるさ、人間見た目じゃねえってことを」と思って、僕はのんびり構えて青春期は諦めた。
そのまま十年の月日が流れた。
大人になってみて、たまーに「ワタシ、男の人の見た目は問わない」とか、ステキなことをぬかす女性も中にはいると知った。
しかし、
「じゃ、好みのタイプは?」
と訊いてみると……、
金城武
言うてることちゃうやん! メッチャ男前やん!
嘘でもいいから、巨人の桑田とか言ってくれよ。
現実には、かわいくもないのにモテる女とか、おもしろくもないのにモテる男とかが厳然と存在している。
乱暴にいってしまうと「そういう才能」なんだな。大雑把だけど、結局的確。「才能」という、この如何ともしがたい隔たり。
というわけで、僕の筋トレも、長時間の労働も、僕の人生にはクソの役にも立たないが、そっとしておいてほしい。労働は「仕方ないから」、筋トレは「デブは認めないから」、ギャグは「思いつくから」に過ぎないのよ、カナザワくん。
明日も僕は、うんざりしながらバーベルを挙げる。
こっそりと、ひっそりと。
(了)