月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「当初の予定」

誰にでも自分の人生についてのイメージってものを持って生きていて、「二十六才で結婚したーい」とか「三十八までにはなんとか童貞を卒業したい」とか、勝手に思い描いていることと思う。
僕は二十才でどうにかハタチになりたいとは思っていたが、その他はあんまりビジョンは持たずにここまでやってきた。ただ、なんか知らんが十代の頃から「男ってのは二十七が一番カッコイイ」と思っていた。
好きな俳優とかスポーツ選手の名前の後に(27)と書いてあると、なんの根拠があってか「やっぱりな……」と一人ほくそえんでいた。
で、気がついたら、僕が二十七才になってすでに三ヶ月もたっているじゃないか! 当初の予定ほどカッコよくないまま、四分の一年も無駄に過ごしてしまった。
僕の思い描いていたところによると、男たるもの二十七にもなったら、行きつけのバーの二、三軒もあってだね、夜にはよく磨かれたオーク材のカウンターの端でバーボンを傾けて、週末にはオトナな彼女の一人(できれば二人、いや、三人……)もいて、しかしベタベタすることなく、「アタシたちセックスなんてしてません」みたいな澄ました顔してオープンカフェで平日よりも緩慢に流れる時間を共有してだね、平日は平日で昼間っからサングラスしてドライブに出かけ、金は持っているようだが、ネクタイしてるところなんて見たことない。
一体、あの人なんの仕事してる人なんだろう?
そして、たまにはヤクザに追われた美女を救い、気が向いたら家出した少年を更正させ、独りで大企業の陰謀に果然と立ち向かい、親友と呼べる男の危機にはコルトリボルバーを手に駆けつける。
自分や家族については語りたがらないが、脇腹に残る傷跡から察するに、きっとなにか哀しい過去を背負って生きている。
……こういうハードボイルドな男になっているものかと思い込んでいた。
まさか、毎朝八時三十九分発の阪急線に遅れまいと、駅へと続く湿った路地を走っているとは思わなんだ。
「目覚ましちゃんとセットしたのに〜!」
年を取るごとに思うが、人間は、特に男ってのは(女性についてはわしゃ、なんもわからん)いつまでもガキだ。大人は子供が思うほど大人じゃない。小学三年生の頃、六年生は大人だった。中学二年生の頃、高校一年生は大人だった。高校三年生の頃、大学生は大人だった。大学生の頃、会社員は大人だった……。
でも、いざ自分がそこに至ってみると、自分は変わらぬガキで、アホなのだ。ドキドキしながらエロ本を買った若かりしあの頃は遠き日々と思いきや、いまだに後輩からHなDVDをもらって喜んでいる二十七才のガキがここにいる。本がDVDに進化した、この自己投資の成果だけは認めていただきたいが。
しかし、まだまだ若く蒼い我々には、許すまじアホなおっさんというのはたくさんいる。政治家、中学時代の体育教師、商売相手、電車で鬱陶しいおっさんなどなど。
そういう人たちもきっと、僕らと変わらぬアホなガキなんだよ。
こうやって、僕らもハゲでデブでアホなおっさんになっていく。こう思えば、僕らもみんな同じなんだな。
僕らってかわいいな。
おっさんてかわいいな。
人生って切ないな。
あ〜ぁ。
(了)