月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「おかんがオレオレ詐欺に引っかかりました…」

うちのおかんがいわゆる「オレオレ詐欺」に引っかかった。
50万円やられたそうだ。

手口は、掻い摘んで書くと以下のようになる。
僕の兄になりすました人物から電話があり、「会社の重要書類やケータイが入ったカバンを失くした。だから、いま公衆電話からかけてるんだけど、今日中に1000万円支払わなくてはいけなくて、上司とお金をかき集めている。自分の責任なので上司にばかり苦労をかけられないから、ATMから50万円引き出してきて、助けてくれないか」と言うのだ。
そして、「俺は外にいてそちらに行けないが、ちょうど上司が近くまで来てるから、彼に渡してほしい。彼はおかんの顔を知らないので、いま着てる服装を教えて」という筋書きだったそうだ。

ポイントは
・週末に入る前の金曜日の、銀行窓口(問合せ)が終わる午後三時ごろに着電。
・カバンは反社(反社会的勢力)に取り上げられていて、ケータイにかけると個人情報が抜き取られるからかけてはいけない、と釘を刺す。
・また、金銭にかかわることなので第三者には話さず、内密にしてほしい、と頼んできた。
・指示通りの場所で声をかけられた上司は、とても紳士的で丁重にお礼を言われた。
 ……といったところで、やや荒唐無稽ながら、自分たちの思い通りにひとを操作できるよう巧妙に仕組まれている。

なんと、あとでお礼の電話まであったそうだ。
あまりに鮮やかな手口で、僕はおかんを責める気にもなれない。
犯罪は憎むべきだが、縛り上げられて暗証番号を吐かせられるとか、何百、何千万円も騙し取られるよりマシだったと、高い授業料と考えるしかないのではないか……。

かねてより、「詐欺には気をつけてね。僕たち息子が電話でカネを求めることは絶対にないから」と、繰り返し言い聞かせていたし、「最近は還付金詐欺も多いみたいなので注意してね」と、インターネット記事のURLを添えて送ったりもしていたのだ。
何年か前にも、僕の兄が痴漢で捕まったという設定のオレオレ電話があったそうだが、そのときは「うちの息子はこんなふうに泣きじゃくらない」と見破っていた。

それでもやられてしまった。
僕の母親は昨年大病もしたし、残念ながら、老化によりやや認知能力が衰えているのだと思う。
その週末は「あぁ、長男の役に立ててよかった」と誇らしくすら思って過ごしたそうなのだ。
週明けになって、兄と話す機会があり、「え! どういうことだよ!!」となったらしい。

ニュースを読めば、こういう詐欺被害に遭う高齢者は、訝しんで止めようとする銀行員を振り切ってまでお金を振り込んだり、機転をきかせた店員に防がれるまで、高額の電子ギフト券をグイグイ買おうとしたり、偶然のかたちで心ある人に遭遇しなかったら、未然に防げる手立てってあるのかな、と思ってしまう。

しかも、犯罪集団は顧客リストを持っているから、一度引っかかったうちのおかんなど上顧客に分類されているかもしれない。つぎにまた別の手で来られたら、二度騙されない保証はどこにもない。

そこで、離れた地方に住んでいる次男の僕は、地元の警察署に連絡をとって、県民サービス係の警察官の方に助言を仰いだのである。アポをもらい、お話を伺ってきた。

警察署なんて、運転免許関係の用事でしか訪ねたことはないので、白いシャツの制服を着た永松さん(仮名)の案内で奥の小部屋に通されると、映画やテレビでしか見たことない取り調べを受けるようで、ちょっと昂揚する。

永松さんは、高齢者を狙う詐欺のさまざまな手口を教えてくださった。
まずは、おなじみ①「母さん助けて詐欺(オレオレ詐欺)」である。
親が地方に住んでいる場合、東京や神奈川までお金を持って来させる手口もあるそうだ。
田舎だと見知らぬ人間は目立つし、カネの受け渡しが済んだら、偽の息子から「母さんありがとう。迎えに行くからいっしょに帰ろう」と、どこかで待ちぼうけをさせ、その日のうちに家に帰れなくさせるという。
そのほか、②市役所の職員を騙る「還付金詐欺は、「お金が還ってくるので、こちらが案内する通りにATMを操作してください」と言って振り込ませるものがオリジナルタイプ。
「あなたの古いキャッシュカードでは還付金が受けられないので、新しいものに交換します。暗証番号を確認させてください」というのが、新たなパターンだそうな。
役所の手続きというのはわけわからんほど複雑すぎるから、わかりやすく親切にされたら従っちゃうよなぁ。
③警察官に成りすました詐欺
「詐欺グループを捕まえたところ、あなたの名前がターゲットのリストに載っていました。カードを封印させてもらいます」と言って、クレジットカードを袋に入れ、ダミーが入った袋とすり替える。映画『スティング』でも見られた古典的な手口だ。
「このまま三日間置いておいてください」と指示して、通報を遅らせる。

「近所で空き巣がありました。自宅に現金はありますか?」からの、「偽札の検査をするので、預からせてもらいます」という流れもあるという。
よく考えたら話のスジがおかしいのだが、咄嗟には疑うことができないものだ。
警察官以外にも、銀行員や百貨店員を名乗って「あなたのクレジットカードが犯罪に使われました」と言ってコンタクトしてくることもあるとのこと。
④老人ホーム入居権詐欺
大手建設会社の名前で電話がある。
「今度開設される老人ホームに入居する権利が当たりましたが、ご入居されますか?」
唐突にそんなこと言われても、「いいえ」と答えるのがふつうだろう。
「では、ほかの方に譲りますので、あなたの名義を貸してもいいでしょうか?」
これを受け入れてしまうと、つぎに“警察”から電話が来て、「名義を貸すのは犯罪です」と脅されるのである。
パニックになっていると、また建設会社から電話が来て、
「違法という指摘があってこちらも困っているので、入居権を買い取ってくれ」
となる。

次々に新しい手口が発明されているように見えるが、基本は上記の
①母さん助けて系
②還付金系
③警察系
④老人ホーム系
の4つの類型があり、それがいろんな派生や新シナリオでもって、「最近はまたこれが流行っている」というふうにぐるぐる巡っているということだ。

対策としては
■まず、固定電話をやめる。
最近は携帯電話でこと足りるはずなので、解約してもいいのではないか。
詐欺の電話は圧倒的に固定電話が多いそうだ。
「犯罪防止のため録音します」という警告アナウンスが事前に流れる「防犯対策機能付き」の電話機もあるそうだが、気休めにしかならない。実はうちの実家の電話機もこれだった。

僕の家にも固定電話があるからわかるが、だいたいロクな電話がかかってこないものである。勧誘やセールスが大半で、顔洗ってるときとかに電話が鳴るから顔を拭き拭き慌てて応答すると、どこかの業者が送信してきたファックスの「ピー」いう音だけが聞こえ、受話器を叩きつけたくなる。

■「はい、〇〇です」と名乗って出ない。
うちのおかんは、上司役の紳士に「マエダさん」と呼び止められてカネを渡したらしい。
電話番号も名前も住所も犯罪グループに把握されているのだ。考えてみたら恐ろしいことである。
永松さんによると、「消防署の者ですけど、最近管内で火事が増えております。そちらはおひとり暮らしですか?」という、詐欺集団が独居老人を識別するための電話もあるという。
「はい、そうです」と思わず答えると、「くれぐれも火に気をつけてくださいね~」と当たり障りなく電話を切るが、「ハイ、独居老人」とリストにチェックされる。

■変な電話が来たら、一旦切って確認
それができたら苦労はないのだが、よくわからん電話は一旦切って、長男なら長男、市役所なら市役所、警察なら警察署に自分で電話して確かめてみるのが一番いいのだ。
うちのおかんの例みたいに「ケータイにかけると個人情報が抜き取られる」などと警告されても、僕なら「そんなわけねえだろ」とわかるが、年寄りは鵜呑みにしちゃうだろうなぁ……。
「こんな電話が来たけど」と、まわりの人に相談してみるのも手なので、とにかく一旦切って、落ち着いて考えるのが肝要なのだろう。長男のケータイがダメなら、僕に電話くれてもよかったはずだ。

奈良県警では
「電話口 お金の話 それは詐欺」
という標語で、注意を促しているという。

「私どもの発信が弱くてすみません」と、永松さんは恐縮するが、ホントに世の中は、悪いやつらが高齢者を虎視眈々と狙っている。
連中は頭もよく、演技力にも長けていて、受け子だけ捕まえてもなかなか組織の上層までたどり着けないように工夫している。
そんな中、独居老人はまるで、ジャングルに佇む草食動物でしかない。
うちの親だって、本人は老人のつもりすらないし、防犯意識が低いつもりもない。
「まさか私が騙されるなんて」と全員が言うはずだ。

インターネットを絡めた詐欺も含めれば、我々家族は、果たして親(や子)を守り切れるのか……。
ショッピングサイトから決済画面だけ別のサイトに飛ばし、カード番号を入力させて「エラー表示」のあと、元のサイトに戻されたら、情報を詐取されたことにすら気づかない。
「あなたのPCがウィルスに感染しました」と表示が出て、「データを守るには、いますぐクレジットカード番号を入力して対策ソフトを購入してください」とやられたら誰でも一瞬は焦る。

確実な打つ手はほとんどないように思われるが、日ごろからそういうことを会話するしかないのだろうなぁ。
最終的には、近くにいる家族がキャッシュカードやクレジットカードを取り上げて、お金を管理するしかなくなる。もうそうなったら、老人ホームに入ってもらったほうがお互いのためかもしれない。

親が年々頑なになって、息子の言うことなんか聞かないし、話せばケンカになるのは、我々四、五十代の人間にとって共通の悩みだと思う。
例に洩れず、会うたびに腹が立つので、ここのところおかんを避けていた僕なのだが、今回の一件は、僕にも〇割〇分三厘くらいは責任があろう。

警視庁の特殊詐欺対策ページには、まさに今回の手口が載ってました。ご覧ください。
そして是非、防犯についてもう一度、親御さんと話し合ってみてください。

www.npa.go.jp