月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「パンツの中のタイガーが、ネコになったら」

「やっぱり君たちはなんにもわかっていない」
とエラソーに思うことがあったので、この際エラソーに書いてしまおう。

それは、みんな大好き、チン○の話である。

先日、飲み会で女性と話していたところ、彼氏がEDなのだという。言わずと知れた、勃起不全である。
そのため性交渉はなく、彼女は不満に思っているそうだ。

彼女は言う。

「ワタシとはしたくないみたいなんです」

それ! 相手がEDに苦しむ女性はたいていそのように言う。ちがうんだ。

いや、知らんけど。本当にしたくない人も中にはいるだろう。でも、ちがうんだ。

他人の心中を勝手に決めつけることはできないので、自分の経験から語ろうと思う。

僕にも若い頃に勃たなかった経験が何度かある。

あの苦しさと申し訳なさを言葉にするのはむずかしいのだが、一体どうなっちまった感じなのかを表現すると、
「まるでチン○がネコにでもなったような」感覚なのである。

こちらはしたいのである。なのに、股間のモノはまったく言うことを聞かず、一切の意思疎通ができないのだ。それはまるっきり、呼んでも振り向きもしないネコのようで、おいでと言っても来るわけないし、撫でても摘まんでもデコピンしても反応せずに、知らん顔なのである。
そのくせ、いらん時に元気一杯でニャーニャー鳴いては、飛び回ったり、あちこち引っかき回したりするのである。本当に気分次第で、自分勝手なのである。

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ほかの面ではしっかりした人なのに、セックスに関しては見境がないタイプの男性を「下半身は別人格」と表現することがあるが、それは躁的な意味、鬱的な意味、両方で多くの男性に当てはまるのである。

セックスに臨むにあたり、男は相当なプレッシャーに晒されている。それはもう、卑屈な広告代理店の営業マンがクライアントに接するが如くである。

どういうプレゼンをすれば気に入っていただけるだろうか……。
今夜中になんとか納品できるのだろうか……。
クライアントさんがイライラしないように、お待たせすることなくタクシーが来るだろうか……。
弊社はサイズ的にこんなものなのだが笑われないだろうか……。
いや、規模の問題ではなく、ハード面でご不満点などおありにならないだろうか……。
御社のスピード感的に、「あれ? もう終わったの?」と言われないだろうか……。
「なかなかよかったよ」とお喜びいただけるだろうか……。
「また次も頼みますね」とご指名がかかるだろうか……。

心配事は尽きないのである。

あれもこれも気にしつつ、クライアントのご意向とご機嫌とご要望に神経をすり減らしていると、うっかり弊社の大事なスタッフへの意識がおろそかになってしまいナニがアレしないのである。
セックスというのはちんちんでするものではなく、脳でするものだから、あまりマルチタスクがすぎると、この複雑で不可解な精密機械がたまに誤作動するのである。

「君たちみたいに、ビッチャビチャになって寝っ転がってればいいわけではないのだ」
と喉まで出かかるが、それを口に出しては(出とるやないか)どーせ叱られるだろう。
男女間でセックスのしんどさを言い争っても仕方ない。お互いの本当のところなど、完全にはわかるはずがないのだから。

であるなら、僕は相互理解に少しでも寄与できるよう、このコラムのつづきを書こう。

 

あれほど威勢よく吠え猛っていたはずのタイガーが、ネコちゃんのように無関心になってしまった時、以下のような反応はやめてほしい。

①「ワタシとはしたくないの?」。

冒頭に挙げたように、これは言われると困る。
「ちがうちがう。したいんです」
「じゃあ態度で見せてよ。なにそのぐたっとした態様は」
「いや、ホントなんです」
「上の口ではそう言っても、下のチン○がホラこんなに。やる気ゼロやないか」

やめてあげてください。

②ため息。
一言も発することなく、最も傷つけることができる対応だ。

③舌打ち。
さらに、死にたくなります。

④「触ったら勃つ?」
ダメだと思います。ここが勘違いしやすいポイントでもあるのだが、気持ちいい、よくない、とは無関係なのである。だから、アレコレしてみても、落ち込んだ男はさらに無力感に襲われ、腕に覚えがあったかもしれない女はこれまで培った信頼と実績に疑念を持つことになる。
相手はネコなのである。こちらの思い通りの動きをしてくれると思ったら大間違いなのである。
少なくともしばらくの間は、たとえ国連でも多国籍軍でも岩合光昭さんであっても、なにも手出しできることはないのだ。

 

では、せめてどういう言葉をかけたらいいのか。
男性として、僕ならこう思う。

彼は万策尽きて、女から顔を背けるように横臥する。屈辱感と失望が、千本の針のように背中に刺さってくる。
「ごめん」
かろうじてこれだけを言葉にする。

気まずい沈黙が、ふたりの間に峡谷のように深く、砂漠のように果てなく、支配を強めていく。
おもむろに、彼女はうしろから男に覆いかぶさると、乳房を彼の背に押し付けて、腕を体に回す。彼女の吐息が、首筋にそっとかかるのを彼は感じる。

彼女は、小さな呻り声をのどから漏らす。

彼はそれを、パンティを足首にひっかけただけの、恥ずかしい姿にさせられた女からの不満の表明だと受け取り、自分の不甲斐なさに身を縮める。

ところが、

「じゃあ……」
彼女は、あたかも名案でも思いついたように、彼の耳元にこう告げるのであった。

「また今度しよ♡」

 

どうだろう。(前号にひきつづき)ここまで書いて、オレはビッチャビチャだが、どうだろう。
このひと言ほど、男を救い、許し、受け容れる言葉があるだろうか。

セカンドチャンスがある。来週か、来月か、来年か、来世かわからないが、これを人は希望と呼ぶ。
男というのは、一般に描かれたり、思われたりしているよりも、脆く、不安定な生き物である。

そして、パンツの中にネコを飼っているという、滑稽な連中なのである。

そのようにお考えになり、SNSでネコの画像を漁るように、チン○により一層の興味を持っていただき、その不可解な習性について知見を高め、将来に役立ててほしい。

私はそう願いつつ、静かに筆を擱くのである。