月刊ショータ

元電通コピーライター。ずっと自称コラムニスト。著書『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』、『カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で』

「きみはなにを考えて仕事しているのか」

年末だから、よし、今年あった楽しかったことを振り返ってみよう。悲しかったことは忘れてしまおう。 今年といってもつい先日の話だが、銀座の広告デザイン会社代表をされている上田豪さんと、僕の電通時代の先輩で「青年失業家」である田中延泰さんと、神田…

「テレビって、いる?」

僕がカナダの牧場でカウボーイをしていた頃、アメリカのケンタッキー州から遊びに来ていたニールというおじさんがいた。彼は企業の工場を設計・建設する会社を経営していて、大金持ちだった。 「今度、わたしのうちに遊びに来なさい」 と言うので、僕はカウ…

「新聞って、いる?」

先日、『働かざる者たち』(サレンダー橋本著・小学館)という漫画を読んだ。斜陽産業と言われて久しい新聞社の中にいる、さまざまなタイプの働かないおっさんたちを描いた哀しくて笑えるものだった。 僕は電通に勤めていた頃の何人かの顔を思い出したし、新…

「今夜も悲しいきみへ」

今朝いきなり訃報が舞い込んできた。 カナダの牧場にいる日本人カウボーイ「ジェイク」から、「ステュがなくなった。おそらく心臓麻痺」というメッセージを受けた。 「ポッカリ穴があいた感じ」というジェイクに返せる言葉を探すには、しばらくの時間を要し…

もうすぐ死ぬかのように生きること

一時間幸せになりたければ、酒を飲みなさい。三日間幸せになりたければ、結婚しなさい。八日間幸せになりたければ、豚を殺して食べなさい。一生幸せになりたければ、釣りを覚えなさい。 という中国古諺があるらしい。 僕なら一生幸せになりたければ、カント…

「太くて黒い棍棒を」

僕の仕事仲間に山本太郎さんという人がいた。仮名か実名かわからない名前なのでこのまま書こう。もちろんあの政治家とは無関係だ。 太郎さんはちょっと変わった人で、よくしゃべった。あんまり人の話を聞かずにしゃべるくせに結論がなかったりするので、会議…

マエダという名前とインドネシア

もう五年もたってしまった。五才若かった僕は、インドネシアで働いていた。勤めていた広告会社で、アジア内のあちこちの拠点にコピーライターやアートディレクターの中堅社員を送り込み、三ヶ月間、現地社員たちと席を並べて働くという研修プロジェクトがあ…

「電通辞めて三年たった予後観察(個人的メモ)」

僕は二〇一五年六月にそれまで十四年勤めた電通を辞めたので、もうすぐ三年になる。 この『月刊ショータ』では、「幸せに生きるための10のこと」みたいな、読んですぐ効いたような気がするコラムは書かないことにしているのだけど、今回は「本当のことを書く…

「#metoo 時代のHow to SEX」

僕の友人の稲元くん(仮名)は、女の子と飲みに行くと、「サラトガクーラー」を注文するという。彼は現在二十代で、カノジョはいない。 「なんでサラトガクーラーなの?」僕は尋ねた。 「サラトガクーラーというのは、ジンジャーエールとライムジュースのノ…

「銃でスポーツする人たち」

九〇年代の後半。僕がアメリカのケンタッキー州の大学にいる時、パブリック・スピーキングのクラスが必修だった。つまりはプレゼンテーションやスピーチなど、大勢の人の前で話をする技術を学ぶ教室だ。 その中で、「自分が好きなことについてスピーチをしろ…

人は「好き」でできている

先月、頼まれて講演をしたので、そこでお話ししたことを編集してお伝えしようと思う。 依頼は兵庫県立図書館からで、読書推進事業の一環として、若い人たちにもっと本を読んでもらおうというのがテーマであった。 今さら言うまでもなく出版業界というのは大…

「キ、キミらはおもしろいのか?」  

ちょっと思い出話を。 一九九〇年代と二〇〇〇年代の間の頃のことである。僕はアメリカで大学を卒業したあと、帰国して法政大学の大学院に進学した。日本の大学生活というものを知らなかったし、それらしいことを体験してみたいと思って、「そうだ、サークル…

さぁ、憲法の話を(堂々と)しよう

うちの近所にものすごく安倍首相が嫌いなご様子の家があり、門に張り紙をしてまでその嫌悪を表明している。 「安保法制反対!」「安倍の独裁を許さない!」「憲法改悪するな!」 悪霊退散の御札か。 先の衆院選で自民党が大勝すると、ややトーンダウンしたの…

おっさんたちのスタンド・バイ・ミー③

ロザリー・レイクを後にすると、スイッチバック(九十九折のこと)で丘を下った。昨日はほぼずっと登りだったから、はじめて下りの筋肉を使ったような気がする。 ほどなくして、昨日の本来の目的地だったシャドウ・レイクに出た。このトレイルでは次々と湖に…

「おっさんたちのスタンド・バイ・ミー②」

マンモス・レイクスではまずウェルカム・センターに立ち寄って、予約してあったジョン・ミューア・トレイル(JMT)の入山許可証を取得しなくてはならない。ログハウス風の建物の中に、記念品や土産物のストアとインフォ・カウンターが一緒になってある。 …

「おっさんたちのスタンド・バイ・ミー①」

カリフォルニア州には「ジョン・ミューア・トレイル(JMT)」という有名なハイキング・コースがある。ハイキングと書くと、サンドウィッチでも携えてテクテクと歩く牧歌的なイメージだが、ここはウィルダネス(原生自然)の中を一本伸びるトレイルを歩く…

「寅よ、ちょっとは役に立たんかい」

二年前の夏、僕がカナダでカウボーイをしていたある日、日本の主人(妻)からメッセージが来た。 「猫飼ってもいい?」 僕は猫好きで、小さい頃から猫を何匹も飼ってきたけど、主人は犬好きで、実家で犬を飼ってきた。だから意外であった。余談だが、人間の…

「またやるんですか、『盗聴法』という言い換え」

2015年の夏、安全保障法制の施行に関連して、日本中が喧しかったはずである。はずである、というのは当時、私はカナダの牧場でカウボーイとして働いていたので、そこの母屋にある弱いワイファイにスマホをつないでニュースを閲覧する以外に状況を知る術がな…

拙著の「はじめに」を転載します

拙著『広告業界という無法地帯へ ダイジョーブか、みんな?』が刊行され、おかげさまでまずまずの評価をいただいています。 売上ランキングのどこで1位とか、それはひとまず措いて、読んでくださった人が「一気読みでした」「せつない気持ちになって、ちょ…

「小さな本屋さんと僕と電通のかかわり」

電通関西支社には昔から出入りされている書店がある。まや書店という。 店舗は大阪は淀屋橋の三井物産ビルの地下にあって、僕はそこにも行ったことあるのだけど、五人も入ったら一杯なくらい小さな本屋さんだ。 主人のおじいちゃんがいつも痩せた体で、雑誌…

「トランプ大統領就任演説に見るアメリカ人の限界」

ドナルド・トランプ新大統領の就任演説で、何をどのように言っているのか、全文を読んでみた。 www.huffingtonpost.jp www.newsweekjapan.jp 演説における言葉遣いや品位を問う声もあったが、まぁ、なんと言うか、間違ったことは言っていないかもしれないが…

「電通はなくならない。自由がまたひとつ、なくなる」

去る十二月二十三日に、電通が二〇一六年の「ブラック企業大賞」に選ばれ、二十六日には厚生労働省の長時間労働削減推進本部(本部長・塩崎恭久厚労省)が、過労死ゼロを目指す緊急対策を公表した。 ・企業に対し、実働時間と自己申告時間の乖離がないよう実…

「不寛容という見えない敵に」

しんどい一ヶ月であった。 先月書いたコラム『広告業界という無法地帯へ』への反響として、メディア各社から取材が押し寄せた。新聞社二社、テレビ局四社、雑誌社二社、インターネット系二社など。ラジオ番組でも僕の知らないところで紹介されていたようだ。…

「広告業界という無法地帯へ」

電通の新入社員が自殺して、超過勤務による労災が認定されたという出来事が、メディアで連日取り上げられている。若くして人生を諦めてしまった女性社員の無念と、ご家族の心痛と、友人や同僚たちの動揺を思うと、僕の心も穏やかではいられない。 僕は二〇〇…

「アメリカはどこにあるんだ」

誰しも、使命感を持って続けていることがあるのではないだろうか。子供を育てることもそうだし、仕事にそれを感じて取り組んでいる人もいるだろうし、地域や業界や趣味で、何かの団体に所属することもそれに通じるものがあるだろう。 僕にとってそれはカント…

「ウヨクに言いたい。サヨクに訊きたい」

「テレビが報じない!」、「言論封殺だ!」と嘆きながら、ネットで思い切り自由に発言している意見がよく聞こえてくる。 「いい時代のいい国に生まれたじゃないか、キミたち」と、僕は思って眺めている。 現代のテレビ放送のメジャー局がどういう人々に向け…

「ウトゥクシクモナイシ、カワイクモナイクセニ」

サラリーマンの仕事をドライヴするものは「怒られたくない」という動機であると喝破したのは、元博報堂のネットニュース編集者、中川淳一郎さんである。 広告業界のしょーもないエピソードが著書である『夢、死ね』(星海社新書 二〇一四年)に書かれていて…

「ウトゥクシク、ナリタイナ」

ある晩、もう二十三時くらいのことだ。 後輩のアートディレクター(以下、AD)が喫煙室に入ってくるなり、イライラした様子で煙草に火を点けて、大きなため息をひとつ吐いた。 「どうした?」 先輩の僕は一応声をかける。 「もうムチャクチャっすよ。ポス…

畳と茣蓙と科学的屁理屈

(前回からの続き)ようやく婚約を果たしたユウちゃんの話を聞きながら、浮かない表情の二人がいた。共に独身のアキちゃん(仮名)と滝下(仮名)である。 「どうしたら、そういうことになれるのでしょう……」 人間関係という深遠なものに対する完全な対処法…

「スタンプカードが一杯になったようなのだ」

コラムに二度登場いただいているユウちゃん(仮名)である。 初めに書いたのは、二〇一四年五月号「ルールブック、読んだか?」の中だった。その続報として、翌年六月にまた書いた。 私は、彼女のいじらしくて切ない恋の行方を静かに見守っていた。 二十九才…